2002年(平成14年)事例Ⅰ

1960年代半ば、情報化の進展に伴って誕生した情報処理サービス産業は、わが国にあって比較的新しい産業である。およそ35年前、この産業が出現した当初は、コンピュータを保有し、顧客から委託された計算処理業務が主な業務であった。70~80年代を通じて、コンピュータ関連技術の進展とその普及に伴って、情報処理サービス産業は急成長を遂げた。とりわけ、最大顧客ともいえる金融業の莫大なコンピュータ投資に支えられ、80年代初頭に「1兆円産業」の仲間入りを果たした情報処理サービス産業の事業規模は、90年代初頭には7兆円にまで達したが、バブル経済の崩壊や金融業界の投資の一巡化などによって、その成長はいったん鈍化した。

しかしながら、90年代半ば以降、インターネットの普及、ネットワーク技術の高度化などIT革命が進展して、IT産業の一翼を担う情報処理サービス関連の企業・業界も大きく変容しつつある。

こうした変化は、エレクトロニクス産業など情報技術と直接関わる産業のみならず、製造業や流通業、金融業などを含めた産業社会全体に多大な影響を及ぼしている。また、企業間の技術競争も、地球規模でのデファクト・スタンダードを巡ってさらに激しさを増している。産業社会全体を巻き込んだ事業環境の変化の中で、中小・中堅の情報処理サービス企業にも経営革新が求められている。

A社もその例にもれず、情報技術の進化と業界構造の変化とともに、その歴史を刻んできた独立系の中堅情報処理サービス企業(独立系システム・インテグレーター)である。1960年代後半、現会長職にある創業者によって設立され、データエントリー業務を開始した。その後、重電機メーカーの情報システムや航空会社の座席予約システムの運用サポートに業容を拡大すると同時に、全国に出張所を設立して事業拡大を図ってきた。80年代半ばには医療関連システムの運用サポートを、90年代にはシステムセンターを開設してアウトソーシング事業の強化を図った。

現在、A社の資本金は1億円、売上高約40億円、従業員数450名(パートタイマーを含む)である。営業利益はおよそ1.2億円、営業利益率は3%前後であり、必ずしも情報処理サービス産業の中で高い利益を上げている企業とはいえない。A社の取引先をみると、およそ7割がメーカー系のエンジニアリング会社であり、エンドユーザー系企業の売上比率は3割まで達していない。また、250社を超える顧客別の売上高をみても、1社当たりの取引額が1,000万円に満たない取引先がその大半を占めており、取引額が5,000万円を超える取引先の数はわずかである。

A社の事業は、創業時代から続いている「システム運用事業」が売上全体の45.0%、システム企画・システム開発などの「システム開発事業」が42.5%、残り12.5%がシステムセンターを活用した「アウトソーシング事業」という構成になっている(A社の事業別売上構成比参照)。「システム開発事業」は、一部を除いて顧客先での常駐は少ない。それに対して、全体の45%を占めている「システム運用事業」の場合、業務処理を顧客先で行うことが求められるために特定顧客先に長期間常駐することが多く、そうした社員は、本社あるいは事業所への出勤を求められていない。

●A社の事業別売上構成比

上記3つの主力事業を有する同社の組織は、医療システム事業部、システム開発事業本部、システム運用事業本部、システム事業本部と、営業本部、管理本部および経営企画室の管理部門によって構成される(A社の組織図参照)。各事業部の売上高は、それぞれ10億円程度と均衡している。

医療システム事業部の主たる事業は、医療システムの開発および運用である。システム開発事業本部は、エンドユーザーおよびベンダー向けのシステム開発で、業務別売上構成では、システム開発業務が約65%を占めている。システム運用事業本部では、顧客業務システムの運用・保守とそのオペレーションを担当している。システム事業本部では、顧客業務システムの運用管理とシステムのカスタマイズに加えて、システムエンジニア(SE)、プログラマー、オペレーターの派遣などの業務を行っている。

●A社の組織図

コスト構造をみると、売上原価の7割近くを、従業員に支払う給与と、100社を数える「協力企業」と呼ばれる外注業者からの技術者雇用によって発生する外注経費に含まれる人件費が占めている。もっとも、90年代初頭まで急騰していたSEの賃金も、一部の技術者を除いて近年では低位安定傾向となっていることは事実である。

●第1間 (配点10点)

ソフトウェア、ハードウェアを問わず、情報関連技術は長足な進歩を遂げてきた。90年代後半に始まったIT革命は、産業社会に大きな影響を与えている。近年の情報技術の変容が、中小企業の経営にどういった影響を及ばしているか。100字以内で論述せよ。

●第2問 (配点40点)

事例から類推される範囲で、A社の人的資源管理上の課題をその対応策とともに2つあげ、それぞれ150字以内で論述せよ。

●第3間 (配点25点)

中小企業診断士として、A社の社長に組織改革に関する相談を受けた。A社の組織構造と事業構造の問題点は、どういった点にあると考えられるか。組織図を読み込んで、その問題点と改善策を200字以内で論述せよ。

●第4間 (配点25点)

A社は、情報処理サービス産業の中でも、1人当たり売上高、営業利益率が低い事業構造となっている。そうした同社の収益構造を改善するために、今後、どのような戦略的事業展開を考えていくべきか。その可能性について、200字以内で論述せよ。

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