2002年(平成14年)事例Ⅳ

D社は大都市において、駅前に保有している自社ビルを店舗および倉庫として使用している書店で、平成13年度実績で売上高約16億円、従業員数50名(昨年度も同数)である。現在の事業は店舗での販売のみで、文芸書、実用書、学術書、文庫・新書、雑誌など、ほとんどの種類の書籍を扱っている。駅前の持つ特徴で客層は、曜日、時間帯で大きく異なっている。仕入は洋書も含めてすべて大手の書籍卸売業者(取次会社)を通して行っている。昨年度、卸売業者の強い意向でPOSレジを導入し、 D社の売上情報(商品コード、販売単価、販売数量)を1日1回集計処理して卸売業者に送信している。また、卸売業者から送信される納品情報がD社の仕入情報としてコンピュータに入力される。現在、これらの情報を利用して売上実績の把握と決算書の作成を行っている。

D社およびD社が当面の目標としているX社(他の駅前の書店、従業員数60名)の平成13年度に関する貸借対照表および損益計算書は、表1、表2に示すとおりである。D社の総資本経常利益率が約1%と低迷しているのに対し、X社は総資本経常利益率を約8%確保している。

こうした状況を打破するために、D社では新事業等のアイディアを検討中である。その候補としては現在の書籍販売との関連性を考慮して、インターネットによる書籍販売、中古本販売を考えている。また洋書については、卸売業者との代金決済において、これまでの円決済をドルなど現地通貨による決済にすることも検討している。

こうした状況を踏まえて、D社経営者は特に財務的な観点から中小企業診断士に診断・助言を依頼してきた。

第1問 (配点30点)

平成13年度貸借対照表および損益計算書を用いてD社の経営分析せよ。そして、X社と比較した場合、D社の総資本経常利益率を圧迫している原因として、特に重要と思われる問題点を3つ挙げ、その解決策を示せ。

解答用紙には問題点①、②、③ごとに、それぞれ問題点の根拠を最も的確に示す経営指標を1つだけ挙げて、(a)欄にその名称を示し、(b)欄にD社の経営指標値(小数点第3位を四捨五入すること)を記入せよ。また、(c)欄には問題点を40字以内で、(d)欄にはその問題点の解決策を40字以内で、それぞれ述べよ。


第2間 (配点20点)
D社のキャッシュフローについて、次の設問に答えよ。

(設問1)
平成13年度貸借対照表および損益計算書、さらに平成13年度貸借対照表の対前年度増減額を用いて、D社の平成13年度営業キャッシュフローを計算せよ。

解答用紙の(a)欄に営業キャッシュフローの計算にかかわる項目を示し、(b)欄にその金額(単位:百万円)を記入せよ。なお、(c)欄は営業キャッシュフロー額(単位:百万円)である。

(設問2)
D社の営業キャッシュフローはどのような状態か、50字以内で説明せよ。

第3問 (配点15点)
洋書の仕入代金決済を現地通貨で行うとすれば、為替リスクヘの対応が必要となるが、これについて次の設問に答えよ。

(設問1)
仕入れ時点で完全に為替リスクを回避するにはどのような方法をアドバイスするか、30字以内で述べよ。

(設問2)
ヨーロピアンオプションによって為替リスクを回避しようとする場合、代金決済時に円安が予想されたときには、
①どのようなオプションを手に入れるべきか、20字以内で説明せよ。
②オプションの満期日にはどのように対処すればよいか、50字以内で説明せよ。

第4問 (配点20点)
現在の書籍店舗販売と新事業として検討されている書籍インターネット販売および中古本販売のそれぞれ今後3年間の予想売上高営業利益率とその発生確率については、表3に示される推定データを得ている。これに基づいて、事業の収益性に関する次の設問に答えよ。

(設問1)
3つの事業の予想売上高営業利益率を期待値(リターン)で評価すると、どの事業が今後有望と判断できるか、40字以内で述べよ。

(設問2)
設問1で得た結果に対して、期待値(リターン)だけでなくリスクも考慮した事業評価を行うとどのようになるか、60字以内で説明せよ。

第5間 (配点15点)
D社のPOSレジとコンピュータで構成されるPOS情報システムを活用して、今後より一層D社の経営に役立てるための方策について、次の設問に答えよ。

(設問1)
書籍店舗販売の促進に役立てるにはどのような方策が考えられるか、60字以内で説明せよ。

(設問2)
仕入発注業務の改善に役立てるにはどのような方策が考えられるか、60字以内で説明せよ。

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