2003年(平成15年)事例Ⅰ

A社は、地方の幹線道路沿いで10年前から、中古自動車を販売している。資本金1,000万円の株式会社で、年間売上高約4.6億円、売上高経常利益率約2%、従業員は全員正社員で11名である。近年厳しさを増す経済状況の中で、売上高、経常利益はともに微減傾向にある。また、近隣に大手中古車販売チェーン店が進出してきた。そこで、A社の社長(X社長)は、中古自動車販売事業を拡大していくことに不安を抱いて、4年ほど前から新規事業を模索し始めた。

選択した新規事業は、当時、ブームとなりつつあった焼き肉店であった。しかし、X社長には、飲食業の経験もなく、営業ノウハウはもちろん、出店・事業展開に関しても特別の知識や経験を持っていたわけではない。ブームを先読みしたオーナー社長の直感による、ゼロからの新規事業の立ち上げであった。

X社長は、フランチャイズ・チェーン(FC)の中でも比較的加盟店の自由度が高いといわれる、全国展開の中堅焼き肉店FC、Q社と契約することにした。本部(フランチャイザー)であるQ社への打診後2か月ほどで、出店候補地2か所が提示された。X社長は、A社の本社所在地から20キロメートルほど離れた人口30万人の中規模都市の住宅街に店舗を決定した。開店資金は、加盟金、保証金、建築工事賞などの約5,000万円に、店舗取得費および設備のリース料を加えて、約1億円であった。

資金調達を進める一方で、X社長は、本部の指導によって店長候補者を含めた店舗運営に関わる3名の社員の募集を開始した。30名を超える応募者があったが、飲食店の店舗運営責任者を経験した人材を確保することはできず、やむなく、40歳代半ばの店長候補者1名と飲食店でアルバイト経験のある20歳代後半の2名を採用し、本部直営店で行われる3か月間の開店研修に派遣した。

開店1か月前に、研修を終えた3名が戻り、ほぼ内外装の完成した新店舗で、キッチンとホールを担当するアルバイト・パートの採用募集、開店告知の広告宣伝などが、本部の指導のもとでスケジュール通り進行した。開店直前のアルバイト研修も終わり、開店の日を待った。

A社の焼き肉店a店は、開店後予想を超える集客があり、売上高も日に日に伸張していった。開店後しばらくは、本部から支援部隊が派遣され、不慣れな従業員の仕事を手伝ってくれたこともあって、さほど大きな混乱もなく、地域初出店、廉価な焼き肉ブームの追い風の中で好調なスタートを切った。本部による日々の売上高管理・仕入管理をベースにしたデータ管理 によって欠品を生じることもなく、定期的に本部から派遣されるベテランのスーパーバイザーの指導もあって、目立った問題を表面化させずに、開店から半年が過ぎようとしていた。そうしたとき、予想しなかった大事件が起こった。

日本中の食事に大きな不安を与えたBSE(狂牛病)問題である。その影響は、瞬く間に業績に表れた。a店の売上高は、ピークの月の70%にまで落ち込んだ。月次売上高1,000万円を想定し事業を始めたX社長にとって、売上高30%ダウンという業績悪化が重くのしかかった。こうした厳しい状況は、それまで表面化することのなかった欠点を露呈させた。

右肩上がりで伸張してきた中ではあまり目立つことのなかった原価率の高さや、アルバイト・パートに支払う賃金、広告宣伝費などが、a店を高コスト体質の店舗にしていた。危機的な売上低迷の中で、X社長はコスト低減化を店長に指示したものの、その成果は2か月を経ても一向に表れず、BSE問題の後遺症が長引くにつれて、社員のみならずアルバイト・パートの士気も落ち込み、辞めていくアルバイト・パートも増え始めた。

具体的対策を講じることのできなかった店長は 「一身上の理由」で辞表を提出し、A社を退社してしまった。若い社員2名が、そのまま店にとどまってくれたことは幸運であった。とはいえ、20歳代後半という年齢からは店舗運営すべてを2人に任せることを危惧したX社長は、2人から店長を抜擢することを選択せずに、外部から経験者を採用することにした。しかし、適任者がなかなか見つからず、店長不在の中で日常業務を2人の若い社員に任せ、重要な意思決定はX社長が下すという状況で店舗を運営せざるを得なかった。

もっとも、1年近くを経過し、全国を不安に陥れてきたBSE問題を巡る風評も下火になり、a店の土曜日・日曜日、休日前夜の売上高がBSE問題以前の水準に戻り始めた。とはいえ、同地域の他のチェーン店に比べて、その勢いは小さく、競争力強化が今後の大きな課題であった。

●第1問 (配点20点)

規模や業種にかかわらず、本業以外の事業に進出し、多角化を行っている企業の数は少なくない。事業多角化に関連して、以下の設問に答えよ。

(設問1)
企業が事業多角化を進めるのは、なぜか。その理由を、それぞれ20字以内で2つ述べよ。

(設問2)
新規事業として焼き肉店事業を選択したA社のケースにおける、FC展開のメリットを50字以内で述べよ。

●第2問 (配点15点)

a店は、開店直後売上が好調だったにもかかわらず、原価率、人件費などの点で高コスト体質であった。なぜ、店長は具体的な対策を講じることができなかったのか。A社の経営特性をふまえて、100字以内で述べよ。

●第3問 (配点25点)

一般に飲食業は、アルバイト・パートヘの依存度が高いといわれている。アルバイト・パートの管理に関連して、以下の設問に答えよ。

(設問1)
アルバイト・パートの定着率が低下することによって生じるデメリットをそれぞれ20字以内で2つ挙げよ。

(設問2)
単純作業や手順の決まっている定型的作業などマニュアル教育が可能な仕事以外を、アルバイト・パートに教育することはかなり困難である。中小企業診断士として助言を求められたとき、どのようなアドバイスをするかを100字以内で述べよ。

●第4間 (配点15点)

予想しなかったBSE問題が起こったことで、a店の売上は急激に悪化していった。本部(フランチャイザー)から決め手となる対策が示されない中で、X社長は右往左往してしまうばかりであった。X社長から中小企業診断士として助言を求められたとき、どのようなアドバイスを行うか。100字以内で述べよ。

●第5問 (配点25点)

BSE問題の影響が沈静化し業績回復の兆しがみえる中で、X社長は、a店の事業基盤を盤石なものとするための方策について検討しなければならないと考えていた。中小企業診断士として、X社長にどのようなアドバイスを行うか。以下の設問に答えよ。

(設問1)
他チェーン店に比べて回復の遅い売上を上げるために、どのような対策を講じるべきか。100字以内で述べよ。

(設間2)
A社は本社として今後、どのような役割を果たしていくべきか。80字以内で述べよ。

【アマゾンキンドル本の紹介】
画像をクリック!

TOP
error: Content is protected !!