- 2008/02/06
B社はイカ味の揚げせんべいを開発して、Tコンビニエンスストア(以下 「Tコンビニ」という)に卸していた。この商品は、それまで類似の商品があったが、B社が過去の経験を生かして独自に改良したもので、良く噛み締めて味わうと、イカの味が良く感じられるもので、食べた人からは好評を博していた。その売上は順調に伸びていたがおよそ1年前、大手X社と準大手Y社が同じイカ味の揚げせんべいに参入した。B社は企業規模でも、営業力でもX社、Y社に劣っている。それにもかかわらず、Tコンビニで棚を維持することができた。
イカ味の揚げせんべいは、都合2年ほどTコンビニの棚を占めることができた。しかし、残念なことに最近、契約終了を通告されてしまった。この2年間、B社は需要の増大に一層対応できるように設備の一部更新も行っていた。POSデータに一喜一
憂しながらも売上が急速に伸び、B社の売上は2倍になり、そのうちTコンビニの占める割合が4割となっていた。この売上を失うことになってしまったのである。
契約終了が通告されてからおよそ1か月たったある日、社長はある中小企業診断士を訪ねた。この中小企業診断士は社長からB社の展開とこれまでの経過と現状をまず聞くことにした。
そもそもB社の創業は、戦後しばらくしての昭和28年であった。現在の社長の父親が手焼き煎餅の店として開業した。原材料や手順などにこだわりをもって煎餅を焼き、評判が良く、近隣の人口が急速に増加したこともあって売上は順調に伸びていった。また、中元、歳暮など贈答品としても重宝がられるようになった。そんなある日、大都市の有名煎餅店からOEM供給の依頼がきたのであった。売上をさらに伸ばしたいと考えていた先代社長にとって、渡りに船とそれを引き受けることとした。その後、各地域の菓子店、煎餅店の中から有力店が台頭する時期であったり、そうした店が有名デパートに出店する時期と重なったこともあり、業者間のクチコミなどによって、次々と全国各地のそのような有力菓子・煎餅店からOEM供給の依頼がくるようになった。それにあわせて、店舗を付設した従来の小さな工場から少し離れていたが、新設された工業団地の一画を確保して、OEM供給の比重を次第に高めていった。一方、OEM供給とは別に、全国各地からの注文に対応できることを予定して、通信販売事業部門を設置した。
その後、全国各地の有力菓子・煎餅店へ商品を納める安定した経営を続けていった。そのような中で、先代社長の病気をきっかけに子息が新社長に就任した。新社長の経営方針は、先代社長の築いた全国へのOEM供給を拡大していくことであった。
それと同時に、先代社長が手焼き煎餅の製造 ・販売を1店舗から始めたという初心を忘れないために、自社の直営店舗を維持し、そこでは創業時の屋号を守っていくことにした。
一方で、B社は煎餅だけではなく、洋風焼菓子なども扱うようになり、次第に取扱商品の幅を広げていった。全国の有力菓子店に納入している実績を認められて、テーマパークのキャラクター付き菓子などの生産も任された。ちょうどこの時、資本金1億2千万円、従業員79名、売上高30億円となっていた。
その後、大手のTコンビニから、イカ味揚げせんべいの納入に関する話をしたいという電話を受けた。取引条件が厳しく、普通の煎餅メーカーではなかなか納入しにくいという評判のTコンビニからの申し出であったので、社長は喜んで対応することにした。コンビニでは売れ行きによって商品が棚から外されてしまうので、販売開始から10日目の売上数量のハードルをクリアするまでは、気が気ではなくて、毎日近くのTコンビニ店舗での売れ行きを見て回っていた。売上のチェックポイントの10日目、50日目を無事に通過したことによって、社長は自信をもつことができ、また、Tコンビニでの業績は急速に拡大していった。それにともなって、パートを多数採用して業務量の増大に対応した。その後、冒頭で記したようにX社とY社がイカ味揚げせんべいに参入してきたものの、B社はTコンビニでの棚を維持することができた。
しかしながら、Tコンビニに対する他社からの新商品の売り込み競争は、きわめて厳しいものであった。その後、B社はTコンビニ本部から要求されていた次の一手となる新商品を開発できず、止むなく、取引は終了してしまったのである。
ここで、B社が採用してきた戦略のいくつかを述べておこう。まず、先に記したように、社長はB社の出発点である店舗を大事に守ってきたことを指摘しておく。次に、同社の営業部の人数はきわめて少ないが2つの任務を帯びていた。一つはOEM供給先を拡大することであった。もう一つは同社の煎餅を中元、歳暮その他の贈答品として法人で利用してもらうことであった。煎餅好きにとっておいしい煎餅に巡り合うことはなかなか難しいことであるが、B社の煎餅を贈られた人のある一定割合が同社の通信販売事業部門に直接注文をしてきていた。法人との取引自体は、利幅も薄くなかなか継続して採用されないことが多かったが、同社の同部門には、直接注文してきた人の住所と氏名のリストが次第に蓄積されていった。
さて、この中小企業診断士は、この話を聞きながら、B社の直面する現状について、簡単なメモを書いていた。メモ書きには、1、供給者、2、需要者、3、代替物、4、潜在的参入者、5、業界内競争者と見出しが書かれていた。そして、各項目には、数行ずつのコメントが記されていた。
それから、この中小企業診断士はB社を数度訪れた後に、今後の方策について、社長、常務と一緒に検討していった。この中小企業診断士は、いくつかの代替案を示しながら、その中から、自社ブランドの構築・育成を図るべきだという話をした。
B社の社長は、この中小企業診断士の来訪を受けているうちに、徐々に落ち着きを取り戻し、煎餅屋として10年間に50種類の新しい味の煎餅を発売する夢をかねてから持っていたことを思い出した。
●第1間 (配点10点)
Tコンビニと取引を開始してから約1年後に大手X社 、準大手Y社が同様の商品に参入し、B社の商品と競合することになった。それにもかかわらず、B社は棚を維持することができた。これはTコンビニ本部の判断によるものであるが、なぜそのような判断をしたのか。100字以内で述べよ。
●第2問 (配点40点)
B社が採用してきた戦略について、次の設問に答えよ。
(設問1)
B社はOEM供給を現在も続けている。そのメリットとデメリットを120字以内で説明せよ。
(設問2)
B社にとって法人顧客対象の贈答用の商品は、利幅は薄いが欠かすことのできないものである。その理由を100字以内で述べよ。
(設問3)
B社では工場の受付において久助(製造過程で割れてしまって、通常売価では売ることのできない煎餅)を近隣の住民を対象に販売していた。これについてどう判断するか。60字以内で述べよ。
●第3問 (配点10点)
中小企業診断士のメモ書きの4番目の見出しに、潜在的参入者とあるが、B社にとっての潜在的参入者の具体例を2つあげよ。
●第4問 (配点40点)
B社の今後の戦略について、次の設問に答えよ。
(設問1)
B社が自社ブランドを構築・育成するにあたって、重要と思われることを2点あげ、それぞれ50字以内で述べよ。
(設問2)
B社はインターネットを利用した顧客の会員組織の構築を計画している。B社はこのような会員組織をどのように活用すべきか。また、そこにはどのような効果が期待できるか。100字以内で述べよ。