2003年(平成15年)事例Ⅲ

【C社の概要】

C社は、紳士靴の製造・販売を専業とする企業である。1975年の創業以来、熟練した製靴技能者を雇用して、自社ブランドの紳士靴の製造を手掛けてきた。専門店や百貨店を販売先とし、高品質を売り物に業績も順調に推移してきた。しかし、国内需要の伸び悩み、海外からの製品の流入増などによる競争激化を背景に、1991年の約3億5,000万円をピークに売上は減少を続けた。1998年からは赤字が続いたため、2000年に専門店や百貨店向けの紳士靴の製造・販売から撤退した。

完全撤退にともない、事業の再構築に着手した。まず、割増退職金制度などを活用して2000年10月に現場従業員15名の大幅削減に踏み切り、熟練技能者6名に絞り込んだ。なお、2000年1月~12月の売上高は約2億円であった。

そして、新たに取り組んだのが 「工場直販のオーダーメイドの靴屋」への業態転換である。2001年1月からは、大都市郊外の駅前にある自社工場の一角に小売店を併設し、簡易なオーダーメイドによる紳士靴を製造・販売している。

業態転換後のC社の特徴は、顧客の足の形状に合わせて靴の木型を修正する簡易なオーダーメイドを行う点にある。独自の計測装置によって顧客の足の形状を計測し、その計測データに基づき、顧客一人ひとりの足の特性に合わせた靴を製造する。この計測装置は、自社の持つ製靴ノウハウを活かして仕様を決め、計測装置メーカーに委託して製作したものである。この計測装置の使用により、片足につき数秒で、靴の製造に必要な数か所のサイズや形状の自動計測が可能になる。靴のデザインは20種類から選ぶことができ、1足の販売価格は平均40,000円である。

C社は業態転換後、2001年には年間2,000足、2002年には5,000足を販売し、順調に売上を伸ばしている。2002年の販売数量の約3割がリピーターからの注文である。従業者数は現在、社長、小売店の従業員2名、工場の熟練技能者6名の計9名である。

C社は、当面、リピーターを増やすことを最も重要な目標と考えている。また、消費者の靴に対するニーズを踏まえて高付加価値化に取り組み、2店舗目の展開を含めて年間10,000足程度の安定した受注を確保したいと考えている。

売上を順調に伸ばしている反面、クレームも増えてきている。重視すべきクレームとしては、次の2つがある。

1つには、「踵(かかと)の部分を少し緩めに」など、靴のサイズや形状に対する細かい要求がある場合の対応である。C社では、そのような要求を最大限取り入れたいと考えているが、完成した製品が要求を満たしていない場合があり、クレームにつながっている。

2つには、顧客の細かい要求通りに靴ができあがったにもかかわらず、実際には顧客から「足にフィットしない」などのクレームを受ける場合である。

【生産の現状】

C社の靴の製造の流れは以下のとおりである。まず、計測した顧客の足のデータに基づき、①既存の木型に皮の貼り付けやパテでの盛り付けをして簡易型を作成する「型作成」の工程から始まる。以下、②「抜き(革の断裁を行う工程)」、③「製甲(甲の部分の縫製を足踏み式ミシンで行う工程)」、④「つりこみ(機械を使って甲の部分と中敷を木型に装着する工程)」、⑤「バフ(革と靴底がしっかりと圧着できるように、機械で革の表面を削る工程)」、⑥「底付け(機械で甲の部分と靴底とを圧着する工程)、仕上げ」などの工程を順次経て完成品となる。どの工程もある程度の熟練を要する。

店舗で顧客からの注文を受けると、選ばれたデザインのパターンと計測データを添付した製造指図書がその場で発行され、製造指図書が工場に回付されることによってその製造が指示される。また、顧客からの細かい要求については、店舗で製造指図書にメモとして書き込んでいる。

C社の熟練技能者6名は、原則として上記1~6までの各工程について、それぞれ1名ずつ分担している。他工程の応援をそれぞれが行うようにしているが、実際には工程ごとに仕事の負荷が異なることもあり、負荷の多い担当者から不満の声も出ている。納期は、原則として注文から3週間後に設定している。

【競合企業の状況】

最近は、C社のようにオーダーメイドの靴を製造・販売する企業が増加してきている。特に競合企業と考えられているのは、紳士靴の中堅メーカーであるZ社(資本金5,000万円、従業者数62名)である。Z社のブランドは、市場に広く知られており、そのブランドカを活かして2001年からインターネットによるオーダーメイドの紳士靴の販売事業に進出している。

Z社の受注から納品までの仕組みは以下のとおりである。まず、顧客がインターネットまたはファクシミリで申し込むと、足裏の形を採取する簡易な足型採取器が顧客に送付される。足型を採取して足型採取器を添えて返送すると、注文した靴が顧客に納品される。採取後の足型採取器がZ社に届いてからの納期は2週間、価格は1足35,000円前後である。

●第1問 (配点30点)

(設問1)
「靴に足を合わせるのではなく、足に靴を合わせる」といわれるように、靴に対する近年の消費者ニーズは大きく変化している。C社について、(a)靴に対する消費者ニーズの変化に対して期待できる事業機会を1つ 、競合企業Z社と比較した場合の(b)強みを2つ 、(c)弱みを2つ、それぞれ30字以内で述べよ。

(設問2)
Z社に対する競争優位の構築という観点から、C社の今後とるべき方策を(a)欄に、その理由を(b)欄にそれぞれ80字以内で簡潔に説明せよ。

●第2問 (配点30点)

本文中の「重視すべきクレーム」の発生原因として想定できるものを2つあげ、(a)欄にそれぞれ40字以内で記入し、それぞれに対応した解決策を(b)欄にそれぞれ80字以内で簡潔に説明せよ。

●第3問 (配点20点)

中小企業診断士であるあなたに、C社から「納期の短縮」及び「コストの削減」を図るための生産方法の改善についてアドバイスが求められている。提案する改善内容とその理由を200字以内で簡潔に説明せよ。

●第4問(配点20点)

C社は、2店舗目の展開に備えて情報システムを整備したいと考えている。どのような情報システムを構築し、どのような情報を管理すべきか、150字以内で簡潔に説明せよ。

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