2003年(平成15年)事例Ⅳ

D社は、主に電機メーカーX社Y工場から受注する特殊用途の配電盤や制御機器などの筐体(外箱)を製造している大都市近郊 の板金加工メーカーである。加工方法は、NCタレットパンチプレス機を使用して材料である鉄板から製品形状を切り出した後に、鉄板の折り曲げ、溶接によって完成させるものである。先代の社長が創業以来、このX社Y工場から受注し、すでに40年の取引関係になる。35年前に取得した土地に本社・工場を建設して(敷地2,300平方m、建坪800平方m)操業を続け、バブル崩壊までは順調に業績を伸ばしてきた。堅実経営を理念としてきたので本業以外の事業などに投資することもなく、現在、不良資産を抱えておらず利益の内部留保も大きい。

近年、X社Y工場の量産製品の工程が次々と海外移転し、その結果、量産製品用の筐体製造を受注していた他の板金加エメーカーは海外へ移転、あるいは廃業していった。しかし、D社製造の筐体が用いられるX社 の製品は特殊用途の小ロット製品ということから、国内での生産が継続されており、今後もY工場での生産が引き続き行われる見込みである。D社は小ロットに短納期で対応できる技術力を背景に今日まで生き残ってきた。しかし、長引く不況の中で、X社Y工場から同一製品を再受注するたびに価格が引き下げられたり受注量が減らされており、ここ5年間減収減益が続き、平成14年度には営業利益が赤字になってしまった。

3年前に、創業者である先代社長が引退して40歳の子息が社長となって経営を行っており、役員2名の他、常勤の従業員16名が業務に従事している。最近は新規採用もせず定年退職者も出ていないため、従業員の高齢化が進んでおり、平均年齢は48歳である。社長にとっては従業員が先代社長の頃からの生え抜きであり、これまで新しい人事政策は講じてこなかった。

NCタレットパンチブレス機をはじめとする機械装置はどれも10年以上前に購入したもので、NC部分の改良は行つてきたが、すでに償却済み資産となっており、今後、この設備で技術的に一層高度な製品を受注することは厳しい状況にある。

原価については、X社Y工場との価格交渉用に直接材料費と加工費にまとめた原価見積テーブルを用意しているが、受注した製品ごとの実際原価の算定は行われていないので、それぞれの採算性が明確になっていない。また、減価償却については、現在では建物のみが対象となっている状況である。

情報システムとしては、CADシステム、財務会計用経理システムが別々に運用されている。取引金融機関は地元の信用金庫であるが、最近では融資先の選別を始めているようで、それが気がかりである。

D社では減収減益傾向、さらには営業利益が赤字となった状況に歯止めをかけるベく、土地の遊休部分を一部売却して新設備を導入することも視野に入れた経営改善計画を策定・実施するために、特に財務的な観点から中小企業診断士に診断・助言を依頼してきた。

第1問 (配点25点)
D社の平成13年度および平成14年度の決算書(貸借対照表、損益計算書および製造原価報告書)を用いて経営分析せよ。そして、D社が事業を継続する上で解決すべきと思われる問題点を緊急度の高い順に2つ抽出せよ。解答用紙には問題点①、②ごとに、それぞれ問題点の根拠を最も的確に示す経営指標を一つだけ挙げて、(a)欄にその名称を示し、(b)欄に平成14年度分の経営指標値を計算(端数が出た場合には、小数点第3位を四捨五入すること)した上で、(c)欄に問題点を30字以内で説明せよ。また、(b)欄にその問題点の解決策を40字以内で述べよ。

第2間 (配点25点)
D社のCVP分析による収益構造の把握について、以下の設間に答えよ。

(設問1)
第1間で用いたD社の平成13年度および平成14年度の決算書データを使用して、営業利益の算出に関わる費用を変動費と固定費に分解したい。そこで、両年度で変動費率と固定費は変わらないものとして、(a)変動費率 と(b)固定費(単位:百万円)を計算せよ(端数が出た場合には、小数点第3位を四捨五入すること)。

(設問2)
設問1の結果を踏まえてCVP分析を行った場合、D社が営業利益の赤字額を0円にするためにはどれだけの売上高を確保しなければならないか。計算結果(単位:百万円)を(a)欄に記入し(端数が出た場合には、小数点第3位を四捨五入すること)、D社の収益構造の問題点と解決の方向性について(b)欄に50字以内で説明せよ。

第3問(配点25点)
受注の採算性を明らかにするためには受注ごとの製品原価の算定が必要となるが、これについて次の設間に答えよ。

(設問1)
どういう原価計算を行えばよいか、その種類と計算方法の概要を50字以内で述べよ。

(設間2)
D社が設間1の原価計算を情報システム化するには、①現在のD社の情報システムデータをどのように利用するべきか、また、②どういう情報システムのどのような必要データを新たに追加していくべきかのアドバイスをそれぞれ50字以内で述べよ。

第4間 (配点25点)
経営者は新たなNCタレットパンチプレス機を購入して、工場内の空いているスペースに設置し、加工品目の多様化と高度化を図る経営改善計画を考えている。そのために、保有している土地の遊休部分の一部売却も検討している。

導入予定のNCタレットパンチプレス機は平成16年度末に120百万円で購入して金額をその時に支払い、平成17年度初めから稼動する予定である。そのために売却する土地の譲渡価格は80百万円(簿価60百万円)で、売却代金を全額平成16年度末に受け取る見込みである。また資金の不足分は金融機関から借り入れる予定である。

新設備の減価償却期間を4年と考えて、毎年27百万円ずつ定額償却し、平成20年度末には残存価額で売却できると見込んでいる。今後5年間の経常利益と、この機械装置を含めたD社の減価償却費を次のように見積もった。なお、経常利益を算出するにあたり、収益・費用の見越し繰延べはないものとし、また、ここに記載以外の特別損益は発生しないものと想定して いる。

(設問1)
この経営改善計画から得られる今後5年間の毎年のキャッシュフロー(単位:百万円)を計算せよ(端数が出た場合には、小数点第3位を四捨五入すること)。なお、法人税等率は40%とする。

(設間2)
現状のままであれば、今後5年間の正味現在価値(NPV)は年間資本コスト5%と想定すると39百万円のマイナスであった。これを踏まえてこの経営改善計画を含め今後どうすべきかのアドバイスを80字以内で述べよ。

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