2004年(平成16年)事例Ⅱ

「家族の一員である愛犬たち。一緒に元気で楽しい生活を送っていきたい。」B社の経営者はそのような気持ちで犬を飼い、愛犬のために夫婦でペット用品を買い集めていたら、いつの間にかペット用品専門の小売店を経営するようになって10年がたっていた。日本において犬に対する認識が変わり、家族の一員という立場を確立し始めたのも、やっと、この10年であったろう。

B社は資本金500万円、従業者は夫婦2人で、私鉄の駅前商店街から程近い自宅を改装して営業を開始した。そもそもB社が営業を始めたきっかけは、愛犬の散歩で出会った愛犬仲間達から、愛犬に身に着けさせたウェアや小物を褒められ、その入手先を教えたり、共同購入を引き受けたりしていたことだった。10年程前までは、一般にペット用品といえばペットフードと散歩用品、シャンプーなどが主なものであった。しかし、経営者が趣味で集めたペット用品は、夫婦のセンスのよさが愛犬仲間の関心を集め、愛犬のウェアや散歩、しつけ用品といったものに加えて、フードやグルーミング用品なども扱うようになった。その後、現在の顧客の中心でもある愛犬仲間達からの要望に応え、少しずつ品揃えの幅を拡大していった。 時代の変化とともにペットブームの波にも乗り、現在では、ペットが人間の生活に深く入り込んできたことにも関連して、室内住居、しつけ、散歩、アウトドア、ウェア、 クリーン&グルーミング、フード、屋外犬舎・サークル、 オーナーグッズなど取扱商品は多岐にわたっている。これに加えて愛猫のフード・各種用品はもちろん、他の愛玩動物のフードまで扱うようになった。もちろん、この間には店舗兼自宅を建て替え、店舗を拡張し、従業員を3人雇うまでになり、また、年間売上は、1億円に達するようになった。

B社の仕入先は、営業開始当初から海外が中心であった。経営者夫婦が趣味で集めていた時も、魅力的な商品は海外に求めていた。ペット専門誌などから知った海外の小売業者に、日本ではまだ取り扱っていない商品をメールオーダーで注文し、個人輸入を始めた。その後、経営者夫婦は国内だけではなく、アメリカやカナダのドッグショーなどを幾度となく訪れ、そこで知り合った国内や海外の卸売業者・代理店との取引も始まり、次第に種類や数量も拡大していった。また、国内のペット用品の増加とともに、国内卸売業者との取引も増え、国内製品の割合も徐々に増えてきた。

しかし、仕入れる商品は何でもいいという訳ではなく、経営者夫婦が長年培ってきた鑑識眼によって選別された、こだわりのあるものであった。例えば、ペットの中には添加物に敏感に反応するアレルギー体質や、高齢のものもおり、同一に扱えないことがある。そのためドッグフードに関しては、体に優しい無添加、自然食にこだわり、また特に高齢犬などには低カロリー低脂肪のものを用意している。したがって、他店に比べて、価格は高めに設定されている。

ある時、経営者の奥さんが愛犬の首輪を作り、たまたま店先にそれを置いていたのが顧客の目に留まり、評判になった。それがきっかけでB社オリジナルの首輪やウェアまでも作るようになった。また、何種類かのモデル(型)と生地を用意し、その組み合わせによってオーダーメードのウェアの注文にも応じるようになった。価格は既製服の1.5倍から2倍となるが、注文数は多く、現在のところ順番待ちである。製作者が奥さんだけということも原因である。なお、飼い主用のウェアのリクエストもあるが、まだそれへの対応は検討中である。

またB社は、その商品の質の良さやこだわり、希少性、オリジナリティなどが口コミで伝わり、愛犬専門雑誌にも紹介され、最近では近隣だけではなく全国から問い合わせが来るようになった。郵便、FAXによって注文を受け付け、地方発送も始めるようになった。

B社の顧客は、もともと経営者が愛犬の散歩の時に知り合い、趣味で集めたペット用品を紹介したり、譲ったりしていた会社設立前からの愛犬仲間が核である。その後、彼らの口コミで顧客の輪が広がっていった。手作りの顧客名簿には、飼い主の個人データ、愛犬の名前・犬種・生年月日・写真が載せられている。愛犬連れで来店すれば、経営者夫婦と愛犬談義に花が咲き、愛犬談義の中から得られる重要な個人データがメモ書きされている。さらに、その時に必ず愛犬の写真を記録しておくのである。もちろん、拒否されない限りは、飼い主にも一緒に写真に納まってもらう。

さて、最近B社を取り巻くその競争環境にも、少しずつ変化が表れてきた。まず、近隣にホームセンターやディスカウントストアが相次いで開店し、ペット用品を取り扱い、低価格で販売するようになった。また最近、商店街に大手のペット専門店の支店が開店した。この店舗は犬・猫の販売を中心に、ペット用品全般を取り扱い、グルーミングやペットホテルも行っている。また、テレビ、ラジオなどのマス媒体を駆使して知名度を上げ、ブランド力向上を目指している。

B社は数年前、会員カード発行機能や顧客別売上の分類集計機能を備えているPOSシステムを導入したが、現段階では商品別売上の把握にこれを使っているだけである。その結果からは、次のようなことが推察できる。愛犬用品の売上が、総売上の80%以上であること。愛犬用以外のペット用品は、ほとんど在庫の動きに変化がないこと。ウェアを積極的に購入する顧客は、他店にない希少性のあるオリジナル商品を購入する傾向があること。大型犬種であっても家の中で飼う傾向が増えたためか、室内住居に関連する商品の売上が伸びていること。肥満犬、高齢犬が増えているせいであろうか、低カロリー・低脂肪のペットフードの売上が伸びていること。アウトドア志向の高まりか、愛犬を車で移動させるために必要な商品の売上が伸びていることなどである。

順調に成長してきたB社であるが、最近売上が減少し、また、利益率が低下してきている。B社の経営者は、中小企業診断士に助言を求めながら、10年目を迎えた会社の経営戦略の見直しを検討している。

●第1問(配点20点)

B社は近年の収益の悪化に対処するために、どのような品揃え戦略を採用すべきか。100字以内で述べよ。

●第2問 (配点30点)

B社の自社ブランド商品の開発について、以下の設問に答えよ。

(設問1)
B社が自社ブランド商品の充実を図ろうとするとき、どのような問題が生じるか。50字以内で述べよ。

(設問2)
B社は、飼い主(オーナー)用のウェアの開発も検討しているが、その導入の場合の(a)メリットと(b)デメリットを2つずつあげ、それぞれ20字以内で答えよ。

●第3問(配点15点)

ホームセンター、ディスカウントストア、大手のペット専門店に対するB社の競争優位はどこにあると思われるか。80字以内で述べよ。

●第4問(配点15点)

B社の経営者は会員カードを発行するかどうか迷っている。これについて、どのように助言すべきか。80字以内で述べよ。

●第5問(配点20点)

B社のインターネットの利用に関して、以下の設問に答えよ。

(設問1)
B社の現在の販売手法に、インターネットを積極的に取り入れることにより、期待される効果は何か。100字以内で述べよ。

(設問2)
B社は、ホームページを作成し、掲示板を設けようとしている。この掲示板の利用方法として考えられることは何か。100字以内で述べよ。

★ヒント

第1問

本問は、問題文の情報から、B社の近年の収益の悪化の原因と考えられる現在の品揃え戦略について、その問題点を適切に分析し、今後の品揃え戦略についてどうアドバイスするか、分析能力と問題解決能力を問うものである。

第2問

(設問1)
本問は、B社の経営者の奥さんの手作りで始まり、人気が出始めた手作りの自社ブランド商品を開発、育成していく上で、問題文の情報からその問題点を的確にとらえ、指摘できるかを問うものである。

(設問2)
本問は、B社が愛犬用のウェアだけではなく飼い主用のウェアも導入し、自社ブランドのブランド拡張を図ろうとする場合に想定される問題を、問題文の情報から、メリット、デメリット両面について分析するものである。

第3問

本問は、問題文の情報から、B社を取り巻く競争環境の変化の中で、近隣に相次いで開店した低価格訴求を基調とするホームセンターやディスカウントストアなどに対して、B社の競争優位がどこにあるかを問うものである。

第4問

本問は、B社のコアとなる顧客が確保されて見えている状況のなかで、手作りの顧客名簿が持つ意味を考慮しながら、会員カード発行にともなう顧客管理の必要性をどのようにとらえるかを問うものである。

第5問

(設問1)
本問は、B社の販売戦略にインターネットを取り入れた場合、どのような効果が期待できるのか、問題文の情報から的確な分析ができるかどうかを問うものである。

(設問2)
本問は、B社がホームページを作成し、その中に掲示板を設置した場合、B社の経営戦略上、どのような活用方法が考えられるのかを問うものである。

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