2006年(平成18年) 事例Ⅳ

D社は、大都市近郊で大規模団地を中心としたベッドタウンとして開発された町の地主が、オーナー経営者となって15年前に創業した独立系コンビニエンスストアチェーンである。資本金5,000万円、従業者数12名(アルバイトを除く)で、保有している9店舗はすべて直営である。この町は開発されてから30年ほど経過しているために、当初は小さな子供たちを抱えていた住民は、現在ではその子供たちが独立して家を離れることが多く、高齢化が進んでいる。また、この町の端には大都市につながる幹線道路があり、日夜、トラック、乗用車などの交通量が多い。

D社では店舗を、鉄道の駅前に3店舗、大規模団地のある住宅街に3店舗、そしてロードサイド(幹線道路沿い)に3店舗、合計で9店舗展開しているが、駅前、住宅街、ロードサイドのそれぞれの店舗で顧客層が異なっている。駅前の店舗では、朝夕は通勤・通学の人々が顧客層となるものの、昼間はそれほどの人通りはなく、夜も8時過ぎには人通りが途絶えてしまう。大規模団地のある住宅街の店舗では、朝夕は通勤・通学の人々が、また日中は団地内の住民がそれぞれ顧客層となる。幹線道路沿いにあるロードサイドの店舗では、トラックや乗用車の運転手を中心とした顧客層となっている。

各店舗では店長のみが正社員であり、一般店員はアルバイトで、その雇用については社長自らが決定している。また、商品の品揃えについても社長自らが指示を行っているが、企業規模が小さいために、各店舗の顧客層の違いによって品揃えを変えるなどの柔軟で多様な仕入れを行うことが困難であり、今のところ全店舗で画一的な品揃えになっている。一方、日常の仕入れについては店長が在庫状況を見ながら発注している。

これまで、この地域では、D社のコンビニエンスストアのみしか存在しなかったので、ある程度の売上高と利益を確保することができていた。ところが、平成17年度になって大手コンビニエンスストアチェーンがこの地域に店舗を展開し始め、平成17年度のD社決算では、売上高が減少するとともに、営業利益が赤字に転落した。

大手コンビニエンスストアチェーンは、今後もさらにこの地域に店舗を増やす模様であり、D社としては、この状況を十分に踏まえて、これまでの店舗展開に関する戦略の見直しをしなければならないと考えている。すなわち、D社が保有している9店舗は前述したように3つの店舗タイプ(駅前、住宅街、ロードサイド)であるが、企業規模や企業体力を考えると、ある程度店舗タイプを絞り込んでいくことで、顧客層に対して的確に対応できる品揃えや仕入効率の向上を図りたいと考えている。

現在、導入されている POSシステムは、発注業務のためと、売上高および売上原価算定のためだけに利用されている。そこで、これまで以上に有効活用して、顧客ニーズへの対応および仕入・在庫管理にも役立てたいと考えている。

D社では前述した直面している様々な経営課題について、特に財務的な観点から中小企業診断士に診断・助言を依頼してきた。

●第1問(配点30点)

D社の平成16年度および17年度の決算書の資料を用いて経営分析を行い、特に重要と思われる問題点を3つ取り上げ、問題点1、2、3ごとに、それぞれ問題点の根拠を最も的確に示す経営指標を1つだけあげて、(a)その名称を示し、(b)平成17年度分の経営指標値を計算(小数点第3位を四捨五入すること)した上で、(C)問題点とその原因について60字以内で説明せよ。

●第2問(配点20点)

D社のキャッシュフローについて、以下の設問に答えよ。

(設問1)
平成16年度および17年度の貸借対照表および損益計算書を用いて、平成17年度の(a)営業活動によるキャッシュフロー、(b)投資活動によるキャッシュフローおよび (C)財務活動によるキャッシュフローを計算せよ。

(設問2)
設問1の計算結果に基づいて、D社のキャッシュフローの状況を60字以内で説明せよ。

●第3問(配点20点)

D社では、現在の3種類の店舗タイプ(①駅前3店舗、②住宅街3店舗、③ロードサイド3店舗)のうち、どのタイプに集中して店舗の再開発を行うべきかを検討している。その一環として、平成17年度の決算資料に基づいて、以下のように店舗タイプごとに売上高、変動費、個別固定費を集計し、また、全体の共通固定費を算出して採算性の検討を行うこととした。

(設問1)
①駅前、②住宅街、③ロードサイドの店舗タイプごとの、(a)限界利益率および(b)貢献利益率を計算せよ(小数点第3位を四捨五入すること)。

(設問2)
どの店舗タイプに集中すべきかの判断は、D社に関する資料から分析するとすれば、どういう点に着目して結論を出すべきか、60字以内で述べよ。

●第4問(配点15点)

D社では、店舗展開の戦略見直しの1つの案として、駅前店舗である3店舗を閉店してそれに関わる固定資産を売却し、これによって得られる資金6,000万円を投資して、住宅街店舗あるいはロードサイド店舗を何店舗か増加させることを検討している。そこで、以下のように増加させる店舗数ごとに投資額および今後7年間毎年得られるキャッシュフローを推定した。どのように店舗を増加させることが最適かを60字以内で述べよ。

●第5問(配点15点)

D社のPOSシステムを、これまで以上に有効活用するためのアドバイスについて、以下の設問に答えよ。

(設問1)
仕入・在庫管理を改善するためには、どのようにPOSシステムを活用したらよいか、60字以内で述べよ。

(設問2)
効果的な商品の入れ替えを行うためには、どのようにPOSシステムを活用すればよいか、60字以内で述べよ。

★ヒント★

第1問

D社が抱えている問題点を財務分析の面から的確に指摘できる能力を確認するために、提示された財務諸表とD社の状況説明文から判断して、適切な経営指標を選択し、その名称および算出方法が正しく理解できているか、さらに問題点とその原因を論理的に説明できるかを問う問題である。

第2問

(設問1)
企業の財務的側面の診断にはキャッシュフローを的確に把握する能力が求められるが、基礎知識としての、営業活動、投資活動および財務活動によるキャッシュフローの計算能力を問う問題である。

(設問2)
設問1の計算結果に基づいて、D社のキャッシュフローに関する問題点を的確に分析する能力を問う問題である。

第3問

(設問1)
D社の店舗タイプごとの採算性について、売上高、変動費および固定費の観点から検討する能力を確認するために、限界利益率および貢献利益率を算出する能力を問う問題である。

(設問2)
D社の店舗タイプごとの採算性を判断するに当たり、どのような視点から検討すべきかを問う問題である。

第4問

追加的な投資案の採算性を検討する際に考慮すべき内容とその計算方法を正確に理解しているかを問う問題である。

第5問

(設問1)
POSシステムをより有効に活用するための現状把握および改善案作成について、仕入・在庫 管理という課題からその能力を問う問題である。

(設問2)
設問1と同様に、POSシステムをより有効に活用するための現状把握および改善案作成について、効果的な商品入れ替えという課題からその能力を問う問題である。

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