- 2003/10/02
B社は、X市の中心部にあるX銀座商店街の一角に本店店舗を構えるスポーツ用品店である。資本金3,000万円、従業員数20名、年商5億円で、隣接する市に2店舗支店を持つ。本店を含めいずれの店舗においても、地域の学校や団体との関係を深め、緻密な商品供給とサービスに力を入れてきた。また、従業員の顧客対応に関しても住民からの評判が良かった。なおB社は、本店裏にかつて倉庫と駐車場であった土地を保有しており、その再利用を考えている。
X市は大都市近郊にあり、人口30万人を抱え、古くから城下町として栄えてきた歴史と文化や伝統を持つ商業都市である。市の中心に位置する城跡公園は市民に親しまれているだけではなく、史跡や街中の寺院を訪れる観光客の数も多い。この公園を中心に市庁舎や企業のオフィス街があり、X銀座商店街も伝統と近代化の流れの中で時を刻んでいる。100年ほど前の大火事の経験から、耐火建築の蔵造りが注目され、 今日の「蔵造りの町並み」が築かれている。公園から商店街を通って徒歩10分ほどのところにX駅があり、都心部と鉄道で直結している。駅には専門店やレストランとホテルが入った駅ビルが隣接している。B社にとって幸いだったのは、駅ビルの中にはスポーツ用品店はなかったことである。
X市内には、小・中学校と高校の他に、中心部を外れた所に複数の大学のキャンパスもあり、X市は昔から教育水準が高いとされている。B社は、長年にわたって、市内の学校の体操着やクラブ活動のユニフォーム、大学のサークルのユニフォームなどの注文を一手に受けてきた。また、B社本店には、市内の草野球リーグやママさんバレーボールリーグの事務局が置かれ、試合会場の手配などをB社はボランティアで引き受けている。その関係でユニフォームや用品の受注も安定している。B社が毎月発行するミニコミ誌やホームページには、地元スポーツの試合結果が掲載されている。最近では、大学生を中心にフットサル(問題文の末尾参照)の人気が高まり、市内でリーグ戦ができるほどにチーム数も増えている。それに伴いフットサル用品の需要も増えてきている。
数年前、X市の郊外に大型小売業がディベロッパーとなるショッピングセンター(以下「SC」という)が出店した。この影響で、X銀座商店街全体の売り上げも少しずつ減少し始めた。SC内の競合店に客を奪われた店舗の中には、後継者問題も絡んで閉店を考えようとするものも出てきた。SC内には2つのスポーツ用品店があり、1つは大手チェーンのスポーツ用品店で、もう1つはファッション重視のスポーツ用品店である。大手チェーンのスポーツ用品店は、各種スポーツのプロ志向の需要にも応えようとする品揃えをしている。また、もう1つのスポーツ用品店は、若者向けスポーツカジュアルのファッションに重点を置いた品揃えを行っている。
最近、X市の中心部では、出社前や昼休み、そして早朝や夕方に公園周辺をウォーキングやジョギングする人が増えている。週末や休日になると、さらにその人数は増加しており、高齢者の割合が増えてきている。
このようなランナー達のグループ作りが盛んになっており、企業や大学のサークルだけではなく、お互い面識も無いのに1人で走っているうちに顔見知りとなり、グループを作って一緒に走る者も増えている。
ランナー達の悩みは、着替えとシャワーであるが、商店街の裏通りにある銭湯がランナー達のニーズに応えている。また、夕方になると銭湯が社交場となって、グループ同士で近隣の居酒屋へ出掛けていく者たちも多い。しかし、この銭湯は昔から人気があり、高齢者を中心に数多くの人々が利用してきた。ランナー達がこの銭湯を利用することが増えるにつれ、銭湯が非常に混み合ってきている。そこで、この銭湯は何か事業ができないか模索している。
そのような状況の中で、X市は伝統に配慮した道路整備を行い、城下町であるが故に見通しの悪い入り組んだ道路をできるだけ広くするために、電線の地中化を進めている。また、商工会議所を中心に「街おこし」としての企画を考えていた。そしてその1つとして、全国各地で定着しつつある「市民マラソン」を計画している。「健康」と「観光」を融合させ、「歴史と文化を走りぬけよう」というテーマで、城跡公園がスタートとゴールになり、5km、10km、ハーフマラソンの距離別で、初心者、親子から本格的ランナーまでが楽しめる大会を目指している。特に、5kmでは高齢者の参加希望者が多い。X銀座商店街も、もちろんそのコースの中に入っている。電線の地中化により広くなった蔵造りの町並みの中を、市民と全国から参加するランナーたちが歴史と文化の香りの中を、颯爽と駆け抜ける光景は、毎年秋に行われる祭りと同様の活気を見せるであろう。
さて、少子高齢化の波はX市内の学校の生徒数の減少にも表れてきている。都心部から交通のアクセスが良いことで、マンション建設も増えてはいるが、その影響による生徒数の増加は一時的なもので、長期的に見れば安定的なものとはいえない。また、高齢者の割合も増え、草野球人口も少しずつ減少してきた。B社の売り上げは徐々にではあるが低下してきている。
【フットサル】
「フットサル(futsal)」は、基本的に室内で行われる5人制のミニサッカーのようなもので、 ピッチ(コートのこと)の広さはサッカーの約1/7~1/8である。また、スライディングタックルなどの接触プレーは禁止されているので、ジュニアから中高年、女性まで気軽に参加できるスポーツとして人気が出てきている。
●第1問(配点20点)
ショッピングセンター内の2つの競合店に対してB社の強みを活かした差別化戦略は、具体的にどのようなものか。80字以内で2つ答えよ。
●第2問(配点10点)
B社が需要拡大のために、これからターゲットとすべき顧客層とはどのようなものか。30字以内で2つ答えよ。
●第3問(配点40点)
B社は顧客の拡大と自社へのロイヤルティ(愛顧)を高めるために、新しい事業を考えている。どのような事業が考えられるか。
(設問1)
B社は自社だけで行えるサービス事業を考えている。それはどのようなものか、120字以内で答えよ。
(設問2)
B社は商店街の裏通りにある銭湯との共同事業を考えている。どのようなサービス事業が考えられるか、120字以内で答えよ。
●第4問(配点30点)
B社はインターネットを使って、自社のPRだけではなく、地域内外の人々と何らかのコミュニケーションを図ろうとしている。それはどのようなものが考えられるか、150字以内で答えよ。
★ヒント★
第1問
B社の経営資源を分析し、B社が活かすことができるマーケティング戦略上の強みを整理し、これに基づく差別化戦略についての分析能力を問う問題である。
第2問
B社が需要拡大戦略を進めるにあたり、これから標的とすべき新規の顧客層を想定する分析能力を問う問題である。
第3問
(設問1)
B社が顧客拡大と顧客からのロイヤルティ(愛顧)を得るために、新規事業としてのサービス業を展開するにあたり、B社の持つ経営資源を分析し、採用すべき事業を導き出す能力を問う問題である。
(設問2)
立地が近接し、顧客が共通な2つの組織について、異なる経営資源を結びつけ、需要を創造していくために採用すべき共同事業を導き出す能力を問う問題である。
第4問
B社がマーケティングにおけるインターネットの効果を前提にして、地域内外の顧客とのコミュニケーションを図るために、どのような手法が考えられるかを問う問題である。