2010年(平成22年) 事例Ⅱ

B社は、地方都市であるI県Y市とその周辺地域に8店舗を展開する食品スーパーマーケットである。資本金3,000万円、年商は65億円である。現在の従業員数はパート、アルバイトを含めて250名である。B社の創業は1914年(大正3年)、現社長の曽祖父が乾物屋を開業し、やがて野菜、鮮魚、精肉など、取扱商品の品揃えを充実させ、食品全般を商う食品スーパーへと発展した。その後、B社の経営は同族間で代々引き継がれ、1990年までに6店舗を擁する中堅スーパーとなった。

その間、I県全体に大きく展開する地元の大型スーパーや全国規模の大手スーパーなどとの価格競争に巻き込まれ、多店舗展開がコスト増につながるようになり、次第に利益率の低下を招き、1995年度には大幅な赤字となってしまった。また、従業員の能力や成果も十分に評価されす、職場の士気にも影響を及ぼしていた。その熾烈な競争環境にさらされていたその年に、現社長が父親からB社の経営を引き継ぐことになった。

現社長は、早速B社の経営再建に着手し、徹底した組織内部の制度改革や環境の改善、取引先の見直しなどを行った。まず、同族経営にありがちな肥大化した取締役陣に対して、身内とのあつれきを覚悟で退任を要求し、経営陣のスリム化を図った。また、パートを含めた従業員に対しては、その能力を尊重した透明性のある昇給制度を導入し、給与体系も見直した。さらに、優秀なパート従業員に対しては、正社員への登用制度を作り、社員と区別なく能力を評価した。

顧客とのトラブル対応については、各売り場責任者と一緒に基本的ガイドラインを作成し、それに沿って各売り場責任者に顧客対応の意思決定を任せた。また、各売り場に毎月予算を与え、売り場ごとのイベントを考えてもらうようにした。このことで各売り場に活気が溢れ、従業員の結束が強くなった。さらに現場の従業員から発信されるつぶやきやアイデアは積極的に取り入れ、それは、いつでも現社長と直接メールでコミュニケーションが取れるような関係を構築することで可能となっている。従業員を大切にすることによって、従業員からB社が愛される関係を築いてきた。

さらに、創業当時からの長い付き合いのある仕入先も含めて、今までの人間関係の視点ではなく顧客視点に立ち、現在の仕入先の精査を行い、その再構築を図った。

曽祖父の代より、100年近く地元で生かされてきたB社であるからこそ、現社長は「経営の原点は、地元への感謝から」という経営哲学を持っていた。B社は、まず地元の中高年女性に注目し、売り場づくり、品揃えを工夫した。さらに、パートを含む従業員も地元の中高年女性を積極的に採用した。

同時に、現社長は高齢者の単身世帯への宅配サービスを始めたが、ただ単に注文の品を届けるだけではなく、高齢者の不安、不便さの悩みを解決するために、B社にできることは何でも引き受け、御用聞きのサービスもするようにした。高齢者の単身世帯への訪問は、「安否確認」という別の役割を果たすことにもなった。 このようなサービスを通じて、B社はさらに地元に深く根付いていくようになった。

こうした経営努力によって、B社は単年度ごとに少しずつ収支のバランスが改善されるようになった。現社長が経営を受け継いでから2005年までに2店舗を増やし、安定した利益を確保できるようになった。

さらに、標準化された顧客対応ではなく、B社だからできる顧客対応を考えた。前社長の代より既に導入していた、買物100円で1ポイント(1ポイントは1円)付与する、「Bポイントカード」の機能を拡大して、顧客との絆づくりを強化した。

現社長はもともとエコ活動に関心を持ち、使用済みペットボトル(廃ペット)やプラスチック容器などを自主回収して、業者への売却益を地元自治体に寄付していた。この売却益の収支報告は、B社のホームページ上に公開されている。さらに、地元自治体に協力して、B社の各店舗の入口近くに資源ゴミの集積所を無償で設置し、地元の顧客もこれを利用できるようにした。

もともとY市の郊外は畑の多い地域であった。これまで生ゴミは畑や庭に埋めたり、焼却されることが多かったが、高齢化による農業世帯の減少と都市化の進展により、家庭で処理できない生ゴミが急に増えてきた。一方、行政コストは削減され、Y市やI県下の多くの市町村では専用のゴミ袋を有償で市民に購入してもらう方式で、ゴミの回収の有料化が開始された。

現社長は、生ゴミのリサイクルに着目した。生ゴミを顧客から無料で引き取って堆肥化し、契約農家に肥料として提供し、有機野菜を生産してもらうという、生産から消費を循環するシステムを考案した。手始めに旗艦店で生ゴミを処理・堆肥化する機械を購入し、それを店頭の資源ゴミの集積所の隣に設置した。他の店舗では従業員が生ゴミを受け取り、回収して旗艦店まで運ぶこととした。堆肥は契約農家に無償で提供され、農家が栽培する有機野菜を店頭で販売した。

顧客の生ゴミの持ち込みに対して、現社長は新たに「グリーンポイント」という制度を考案し、そのポイントを地元自治体に還元することにした。生ゴミを回収するごとに、2ポイント(1ポイントは1円)「グリーンポイント」が発生し、この「グリーンポイント」はB社の店舗のある地元自治体への寄付となり、緑化事業と公園整備に使われる。

旗艦店での「グリーンポイント」の集計は、顧客が生ゴミを持ち込むときに自分の「Bポイントカード」を生ゴミ処理機横の「ポイント集計機」に差し込み、処理機の秤に生ゴミを置くとポイントが表示され、生ゴミ投入口が開くようになっている。処理機の置いていない店舗では、「ポイント集計機」だけ設置され、従業員に渡す時に「ポイント集計機」にカードを差し込むことになる。ちなみに、生ゴミの処理能力の問題もあり、ゴミの持ち込みは「Bポイントカード」1枚につき、1日1回に制限している。

現社長は、さらにB社でレジ袋の有料化を行い、顧客から集めたその代金(原価の2円)も「グリーンポイント」として蓄積し、これも自治体への寄付としている。この「グリーンポイント」の寄付報告は、廃ペットと同様に、B社のホームページ上に公開されている。

また、マイバッグを持って、レジ袋を辞退する顧客に対しては、「Bポイントカード」に買物のポイント以外に2ポイントを還元している。レジ袋の辞退率は年々増加し、70%を超えるまでになった。

●第1問(配点10点)

B社の現社長は、経営再建策の1つとして、仕入先の精査を行ったが、具体的にはどのようなことを実施したと考えるか。80字以内で答えよ。

●第2問(配点30点)

大手スーパーなどへの差別化として、B社の現社長は2つのターゲット・セグメントを設定した。そこでB社が採用した戦略は各々のターゲットにどのような便益を与えようとしたのか。それぞれのセグメントごとに100字以内で答えよ。

●第3問(配点10点)

B社の現社長は、従業員の能力を引き出すためにインターナル・マーケティングを展開した。実際にどのようなインターナル・マーケティングを行ったのか。50字以内で2つ答えよ。

●第4問(配点20点)

B社の現社長は「Bポイントカード」の機能を拡大した。それは顧客にどのような便益を与えようとしたのか、50字以内で2つ答えよ。

●第5問(配点30点)

B社の現社長がエコ活動を続けようとしているのは、B社の経営上、どのような効果を狙っているのか。2つの視点から具体的にそれぞれ100字以内で説明せよ。

★ヒント★

第1問
現社長が行った経営再建策により解決した、B社のマーケティング戦略上の問題点について、分析力を問う問題である。

第2問
大手スーパーなどとの差別化をするために、B社が行ったマーケティング戦略について、2つのターゲットを見極め、それぞれのターゲットに与える便益について、分析力と応用力を問う問題である。

第3問
B社の現社長が、従業員満足を実現し、B社に対する従業員からのロイヤルティを獲得するために行ったインターナル・マーケティングについて、分析力と問題解決能力を問う問題である。

第4問
B社が発行するポイントカードの機能を拡大することによって、B社の顧客に与えるさらなる便益について、分析力と応用力を問う問題である。

第5問
B社が行う様々な地域密着のエコ活動や社会貢献を通じて、B社へのロイヤルティを獲得するための戦略について、分析力と応用力を問う問題である。

◎答案◎

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