2011年(平成23年)事例Ⅱ

Bメガネは、現在の取締役社長が1959年(昭和34年)に設立した眼鏡専門店である。設立時に掲げた経営理念(お客様の満足、会社の永続、社員の幸福)に立脚したビジネスを今日まで継続し、着実な成長を遂げてきた。お客様の満足という経営理念のもとで、優れた品質と技術力によるお客様への最適な眼鏡の提供、徹底したアフターサービス(年に一度の定期点検など)、それに顧客データベースの構築を行ってきた。会社の永続という経営理念では、適正な利益を確保することおよび地域社会で信頼される会社を目指してきた。そして、社員の幸福においては、社員の成長が会社の成長であるととらえ、社員に活躍の機会を積極的に与えてきた。現在、資本金4,000万円、従業員80名(パート含む)、そして首都圏に5店舗、地方都市に5店舗となっている。

眼鏡フレームと眼鏡レンズを合計した眼鏡小売市場は、ここ数年5,000億円前後の規模でほぼ横ばいの状況である。上場している上位5社の販売高を合計した市場シェアも30%弱で推移している。そのような眼鏡小売市場において、眼鏡一式を低価格で販売するディスカウント・ストアが売上を伸ばしている。3つの価格帯に絞り込むいわゆるスリープライス・ショップやすべてを単一価格で販売するワンプライス・ショップという新業態で急成長している。一方、眼鏡をファッション・アイテムと定義し、ファッション志向の顧客にターゲットを絞りセレクト・ショップといわれるような業態で成功を収めている新規参入者も存在する。

マクロ的に見ると、わが国の総人口は減少することが予測されている。国の研究機関の調査によると、2005年と比較して、2025年における人口の構成については、15歳から44歳の人口の割合は減少し、45歳から64歳の人口の割合はほぼ横ばいで、65歳以上の人口の割合は増加することが推計されている。このように、総人口は減少しても高齢化の進展とともに眼鏡を必要とする消費者はそれほど減少しないと考えることができる。また、低価格のみを重視する消費者がいる一方で、高価格でもファッション性を求める消費者も存在する。さらには、”モッタイナイ”意識のように良いものを長く使うという考え方が復活し、LOHASやスローフードから派生したスローライフというライフスタイルも登場してきている。

Bメガネは、45歳から64歳の年代層をメイン・ターゲットとして、既製ではなくオーダーメイドの累進・多焦点レンズを用いた眼鏡を主力商品として加工・販売を行ってきた。つまり、付加価値の高い眼鏡をマーケティングすることにより高い収益性を確保してきたといえる。定期的に行う顧客満足調査でも高い満足度を維持し、再来客が70%以上という非常に高いリピート率を誇っていた。Bメガネを愛顧してくれる顧客がおり、伝道者としてBメガネについての肯定的なクチコミを行い、新規顧客を紹介してくれていた。社長は、生涯価値という考え方を早くから導入していて顧客管理を行ってきた。具体的には、コンピュータが導入される以前から、顧客一人一人についてオリジナルで考案したカルテを作成してきた。その顧客カルテには、レンズ・フレームなどの購買履歴や顧客のデモグラフィックな情報などのような基本的な情報ばかりでなく、その顧客が好きなことがらや嫌なことがら(たとえばスポーツ・歌手・映画・旅行など)についての情報が記載されている。単に、顧客カルテの「趣味」の欄に「旅行」と記載するのではなく、その顧客が「いつどこに旅行したか」などが詳細に記載され、次回来店した際には、さりげなくその話題に触れることを心がけていた。それらの情報は、顧客がフレームを選んでいる時や検眼している時に収集された。現在は、従業員が簡単に顧客のデータを検索できるようにコンピュータによるシステム化がなされている。

また、従業員は視力測定に関する高い能力を有し、レンズあわせやフレームフィッティングなどについても高い技術を有している。従業員の離職率は低く、高い職務満足を感じている。充実した顧客データベースを駆使したサービスを提供し、従業員が顧客と関係性を高めるために、担当者を顧客が指名するシステムを導入している。他方、担当者が手書きの手紙を添えたDMを除けば、広告費は最低限に抑えられている。従業員は定期的にQCサークルのような小集団活動を行い、サービス品質の向上に努めている。眼鏡小売業界には、国家資格はまだ存在しないが任意の業界認定資格制度はあり、資格を有している従業員は多い。

他方で、新規顧客の開拓が進まないという問題がある。Bメガネのなじみの客が伝道者として新規顧客を紹介してくれるケースも徐々に少なくなってきている。売上高はほぼ横ばいである。ロードサイドに立地している地方都市の店舗と比較して、首都圏に立地する店舗は、いずれも売場面積が狭く、フレームの品揃えは限定的である。また、勤続年数の長い従業員は、ファッションや流行には強い関心は持っておらず、若い従業員は少ない。社長はそろそろ地方都市の店舗で店長を勤めている長男に社長の座を譲るべきか悩んでいる。

このような状況下、昨年、眼鏡一式を低価格で販売しており、テレビで広告を行っているディスカウント型Mメガネ・チェーンが、地方都市に立地するBメガネの店舗の第1次商圏内に出店し、競争に巻き込まれることとなった。その店長は、社長の長男である。また、数カ月後には、Mメガネ・チェーンがBメガネの本店の第1次商圏内に出店する計画があることが分かった。そこで、Bメガネの社長は、中小企業診断士であるあなたに診断と助言を求めてきた。あなたは、Mメガネ・チェーンと競合する地方都市の店舗で店長および従業員にヒアリング調査をするとともに、その店舗を愛顧する数名の顧客に対してグループインタビューも実施した。その結果、価格に魅力を感じてMメガネ・チェーンで購入したが、不満を持った消費者がいることが分かってきた。

●第1問(配点10点)

意図しているかいないかにかかわらず、これまでにBメガネが採用してきた競争戦略はどのような戦略かを50字以内で説明せよ。

●第2問(配点25点)

Mメガネ・チェーンに対抗するために、「わが社にとってファッション性を重視した新しい戦略」が必要であると店長(社長の長男)が提案した。

(設問1)
新戦略のターゲットは、「ファッションに関心ある」というセグメントに絞り込んだ上で、さらに、どのようなターゲットにすべきかを20字以内で説明せよ。

(設問2)
新戦略のBメガネ全体にとってのメリットを(a)欄に、デメリットを(b)欄に、それぞれ25字以内で答えよ。

●第3問(配点20点)

Mメガネ・チェーンに対抗するために、市場浸透戦略を策定したいとあなたは考えている。どのようなプロモーション戦略が必要かを100字以内で説明せよ。

●第4問(配点20点)

サービスの失敗に遭遇し、かつその対応に満足をした顧客は、失敗を経験していない場合に比べて、今まで以上にサービスを利用することが多いといわれている。そこで、あなたは、すべてのBメガネの店舗において、顧客のロイヤルティを高めるために、サービス・リカバリー・システム*の構築を提案した。

Bメガネにとって効果的なサービス・リカバリー・システムの要件を20字以内で(a)欄にあげ、それを100字以内で(b)欄に説明せよ。

*サービスの失敗が起きてしまったときに、サービス組織が問題を正すとともに、顧客のロイヤルティを維持するための体系的な取り組みを行うこと。

●第5問(配点25点)

Bメガネが持続的競争優位性を確立するためのインターナル・マーケティングの具体的な手段について200字以内で説明せよ。

★ヒント★

第1問
経営環境の変化の中で、Bメガネがこれまでに採用してきた競争戦略のパターンと内容について、専門店の戦略構築の基本的理解力と分析力を問う問題である。

第2問
BメガネがMメガネ・チェーンに対抗するための新戦略について、戦略立案の構想力と分析力を問う問題である。

(設問1)
新戦略を立案する際の基礎となる市場細分化理論を理解し、Bメガネにとってふさわしいターゲットを提案する問題である。

(設問2)
これまでにBメガネが実施してきた戦略との整合性の観点から、新戦略のメリットとデメリットを問う問題である。

第3問
Mメガネ・チェーンに対抗するためのBメガネの市場浸透戦略において、必要なプロモーション戦略を考え、Bメガネにとってふさわしいプロモーション・ミックスの提案を求めることによって、マーケティング・コミュニケーションの観点からの提案力を問う問題である。

第4問
Bメガネにとって有効なサービス・リカバリー・システムの要件の指摘と、その内容の説明を求めることによって、専門店のサービス・マーケティングの基本的理解力と分析力を問う問題である。

第5問
Bメガネが持続的競争優位性を確立するための、組織内部に向けてのマーケティングであるインターナル・マーケティング・ミックスの具体的な手段についての説明を求めることによって、インターナル・マーケティング戦略を立案するための構想力と提案力を問う問題である。

◎答案◎

クレアール

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