2011年(平成23年) 事例Ⅳ

D社は日本海側の地方都市にある創業25年の水産加工メーカーである。資本金1,300万円、総資産約13億円、売上高約24億5千万円、従業員数は35名(アルバイト・パート除く)で、地元漁港から揚がる魚介類を中心に、水産物の加工品を主に地元スーパーおよび外食産業に卸す他、年に数回、飛び込みの需要にも応じている。

近年の販売実績は、食の安全に対する消費者意識、生活習慣病を予防する食生活への関心を反映して、地元で揚がる魚介類に対するニーズが高まったこともあり、おおむね好調である。さらに、数年前より全国に展開する大手スーパーとの取引が始まり、売上の15%を占めるなど販売も順調に伸びている。

しかしながら、3つの工場設備は生産能力に余剰があるものの老朽化がみられ、大手スーパーから増産の要請も見込まれるため、HACCP(Hazard Analysis and Critical Control Point)導入を前提とした新規工場建設を検討している。工場用地についてはすでに取得済みである。工場新設にあたっては、製品ラインの見直しが求められている。

また、D社では上記の状況とは別に、単身世帯の増加、個食への対応として、電子レンジや真空パック用個別包装の製品開発、生産、販売という新規事業案が提案されている。

D社の財務諸表および同業他社の財務諸表は次のとおりである。


●第1問(配点35点)

(設問1)
D社の財務諸表を用いて経営分析を行い、同業他社との比較を通じて、D社の財務上の問題点と思われる点を特徴づける経営指標を3つ取り上げ、その名称を(a)欄に示し、数値を計算(小数点第3位を四捨五入すること)して(b)欄に示した上で、その原因を(c)欄に、改善策を(d)欄にそれぞれ60字以内で述べよ。

(設問2)
D社の営業キャッシュフローの計算過程を(a)欄に示し、今後の経営上の課題について(b)欄に100字以内で述べよ。

●第2問(配点15点)

D社は人気製品の1つである製品Wについて、月産20,000単位の生産能力をもっており、来月の予定生産量を得意先からの予想受注量である18,000単位に定めている。販売価格は単位当たり1,000円である。製造原価は、単位当たり変動費500円、月間固定費は8,000,000円である。販売費・一般管理費はすべて固定費である。

そこへ、アジア地域の新規顧客から1単位800円の価格ならば2,000単位購入したい旨のオファーがあった(発送諸掛は先方負担)。社内で検討したところ、海外取引でこのような値引きを行っても、国内需要と国内販売価格には影響を与えないと予想されている。この特別注文を受諾すべきかどうかについて根拠となる数値を示しながら40字以内で述べよ。

●第3問(配点25点)

D社の第3設備では、X、Y、Zの3種類の製品を製造している。製品別の損益計算書は以下のとおりである。

製品XとYは利益を上げているが、製品Zは赤字である。そこで、製品Zの製造を中止してはどうかとの検討を行うことにした。製品Zを廃止すべきかどうかについての計算過程を(a)欄に示し、結論を理由とともに(b)欄に50字以内で述べよ。なお、製品Zの製造中止によって、製品XとYの販売量等は全く影響を受けないと仮定する。

●第4問(配点25点)

D社の新規事業案について、今後3年間の予測情報をもとに検討することになった。今後3年間の売上は、表に示すように販売が好調に推移する場合と不調に終わる場合の2通りが予想されており、毎年、それぞれ確率50%で生じると予想されている。また、コストについては、毎年低コストで済む場合と高コストになる場合の2通りが予想されており、こちらも確率がそれぞれ50%と予想されている。キャッシュフローは売上からコストを控除したものとみなすことができ、初期投資は15百万円と見積られている。このとき、次の設問に答えよ。

(設問1)
各年のキャッシュフローの期待値を(a)欄に、正味現在価値の期待値を(b)欄に示し、どのような意思決定を下すべきかを(c)欄に述べよ。なお、計算を簡便化するため、キャッシュフロー等を現在価値に割り引くことはしない。

(設問2)
初期投資に先だって、R&D費として10百万円を投資することで、コストの高低が判明すると仮定した場合、設問1で得られた結果はどのようになるか、根拠となる数値を示しながら150字以内で述べよ。

★ヒント★

第1問
(設問1)
D社がおかれた財務状況を経営分析により明らかにする。概要に述べられた状況と財務諸表から、問題点となる財務指標を発見し、その内容と対策を適切に述べることができるかを問う問題である。

(設問2)
当該企業のキャッシュフローを正しく求め、そのキャッシュフローの水準となった要因について適切に述べることができるかを問う問題である。

第2問
現状の生産能力を前提とした海外からの特別注文の諾否について、損益計算の変化に対する理解を問う問題である。

第3問
提示された損益情報をもとに、製品の採算性に対する分析手法の確認と製品ラインの見直しについて問う問題である。

第4問
(設問1)
将来キャッシュフローの予測情報をもとにした新規事業案の評価と意思決定について、標準的な知識と計算能力を問う問題である。

(設問2)
経営の柔軟性を考慮に入れた、新規事業案の評価と意思決定について問う応用的問題である。

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