2012年(平成24年) 事例Ⅲ

【企業概要】

C社は地方都市に本社および生産拠点をおき、食肉製品を生産、販売している。創業は1990年、同地域に店舗を展開していた食品スーパーX社が加工部門を分離し、その加工部門の責任者であった現社長が経営を任された。C社社長はX社の加工部門を引き継いだ後、加工工程の見直し、加工技術の向上などを行い生産性の改善を進めた。そして、X社以外の食品スーパーへの販売数量を増加させ、また販売品目を絞って少品種多量生産体制をつくり、さらに生産性の向上を達成するなど経営改善を進めてきた。その後、外食チェーンからの受注にも成功している。

現在ではX社を含めた食品スーパー4社計80店舗、外食チェーン6社計30店舗と取引を行い、生産数量の60%は食品スーパー、40%は外食チェーン向けである。近年、食品スーパー向け製品の販売数量はほば横ばいで推移しており、外食チェーン向け製品も外食産業の業績が思わしくないことから減少傾向にある。

現在の資本金は4,000万円、従業員はパート60名を含む100名である。会社組織としては製品企画部、営業部、製造部、品質保証部、総務部がある。営業部員がつかんだ顧客の製品ニーズを製品企画部で新製品として企画し、製造部で生産、品質保証部で製品検査をそれぞれ担当している。

【生産概要】

C社の主力製品は、牛肉および豚肉をスライスしたステーキ用、すき焼用、しゃぶしゃぶ用、焼き肉用などの加工製品である。主原料は食肉商社から輸入牛肉および国産豚肉の部分肉(ロース、サーロインなどの部位別にカットされたブロック肉)を冷凍の状態で購入し使用している。各製品は顧客の要望に応じて、主として発泡スチロールのトレーに盛り付け、透明フィルムで包装して出荷される。各製品の品質保持期限は、マイナス18℃以下の冷凍保管の条件下で加工後365日としている。製品は約50品目あり、販売数量上位30位までの各製品の月平均販売数量は図1に示すとおりである。食品スーパー向け製品の販売は少品種多量で、外食チェーン向けは多品種少量である。

製品の生産工程は、購入した部分肉の受入検査、一次加工(整形)、スライス、トレー盛り付け、包装、製品検査である。納品は、各顧客からの注文によって週2回それぞれの顧客の配送センターへ配送することが原則となっている。生産計画は毎月20日までに翌月の計画が作成されるが、その時点では顧客からの注文内容は確定しておらず、各営業担当が各顧客への販売数量を予測し、製造部では製品在庫との調整を図って見込み生産を行っている。製造原価構成では原材料費と人件費の割合が大きい。コスト削減対策の1つとして、スライス工程では汎用機を使用すると熟練工を必要とすることから、高い加工技術を必要としない専用機化を進めて人件費の抑制などを行ってきたが、既存の顧客からは一層の製品単価引き下げ要請がある。

牛肉および豚肉は同じ設備で加工されている。そのため肉種の変更時および部位の変更時などの製品品種切り替え時には、衛生管理を徹底するため各設備機器の洗浄、消毒を行うことになっており、その作業には約1時間を要する。また毎日の作業終了時には作業スペースの清掃のほか、各設備機器は分解して洗浄、消毒することから、2時間程度の時間を必要とする。この清掃、洗浄、消毒の作業は、作業者によってその方法が異なり、所要時間もそれによって変動する。製品品種切り替え時の洗浄などの時間が長いため、ロットサイズは生産性と段取り時間を考慮して製造部で決めている。最も販売数量が多い食品スーパー向け製品S1と、多品種少量の典型的な外食チェーン向け製品D2の生産累計数と出荷累計数の直近1カ月の推移は、図2および図3にそれぞれ示すとおりである。現状は全製品ほぼ同じロットサイズを採用しており、製品によって在庫水準は異なり、欠品によって受注に対応できない場合も生じている。

また食品業界で強く要求されるトレーサビリティについては、主原料で使用する輸入牛肉、国産豚肉の両方とも購入時に付帯してくるロット番号で識別管理している。現在使用している牛肉は、すべて輸入牛であり、そのため個体管理は行っていない。

【新規事業】

現在C社には、これまで取引がなかった外食チェーンY社から新規の商談が持ち込まれている。このY社はC社と同地域に立地し、国産牛のステーキ、すき焼き、しゃぶしゃぶ、シチューなどを主なメニューとして、良質な食材、店舗ごとの多彩なメニュー、衛生管理の徹底を掲げて従来のファミリーレストランと差別化を図り、近年急速に多店舗展開している。現在Y社では、材料を本社で手配して各店舗に仕入先から納品させ、加工、調理は各店舗で行っているが、店舗数が増加するなかで加工、調理方法が異なり品質とコストのばらつきに悩んでいた。そこでY社では各店舗の独自性を重視する経営の方針を変更し、集中仕入、集中加工となるセントラルキッチン化の検討を行い、その委託先としてC社を候補としたものである。

打ち合わせの過程でY社からは、全店で必要とする主力メニューの牛肉のスライス、味付け、野菜のカットなどについて盛り付け前までの事前加工を行うことを要求されている。加えて製品のトレーサビリティは国産牛を使用することから個体管理すること、前日発注・翌日全店直接配送を行うことなど、C社でセントラルキッチンとしての機能を持つよう要求されている。C社では、Y社の要求内容に対応可能かどうか検討中である。

●第1問(配点10点)

X社から加工部門を分離して創業したC社の成長要因は何か、100字以内で述べよ。

●第2問(配点20点)

C社は創業から20年以上が経過して、顧客や新製品の増加によってさらに変革が必要となっている。図1~図3なども参考に、C社が直面している課題とその具体的改善策を140字以内で述べよ。

●第3問(配点40点)

C社では新規事業として外食チェーンY社との取引を検討している。その計画について以下の設問に答えよ。

(設問1)
Y社から要求されているセントラルキッチンとしての機能を備えるためには、C社ではどのような対応を必要とするのか、120字以内で述べよ。

(設問2)
Y社から要求されているセントラルキッチンとしての機能を果たすためには、C社の日常業務上どのような情報が必要になるか、100字以内で挙げよ。

●第4問(配点30点)

C社の既存製品の販売数量は減少傾向にあり、さらに既存顧客から製品単価の引き下げ要求がある。それを克服して収益性を高めるには、あなたは中小企業診断士としてどのような方法を提案するか、Y社との新規取引以外で、C社にとって実現性の高い提案を140字以内で述べよ。

★ヒント★

第1問
食品スーパーの加工部門から独立して現在に至る C社の創業からの事業変遷を把握し、成長要因を分析する能力を問う問題である。

第2問
食品スーパーから外食チェーンへと顧客数が増大し、さらに製品品目が増加しているなかで生じている C社の課題を把握し、そのための問題を解決する能力を問う問題である。

第3問
(設問1)
食品スーパーを中心に事業展開してきた C社にとって、Y社から要請されているセントラルキッチン事業を実現するための課題を発掘し、そのための問題を解決する能力を問う問題である。
(設問2)
Y社から要請されているセントラルキッチン業務を円滑に推進するために、C社に求められる生産や管理に必要な情報を分析する能力と提案する能力を問う問題である。

第4問
受注量の減少傾向、製品単価の引き下げ要求がある食肉製品製造業の C社にとって、収益性を高めるための方法を分析する能力と提案する能力を問う問題である。

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