2013年(平成25年) 事例Ⅲ

【C社の概要】

C社は、関西地方に本社を置き、地元関西や中部地方などを主な販売エリアとして、通信事業者などの通信施設で使用される配線用ケープル支持器具、通信機器設置台など金属製の通信施設用部材(以下、「通信用部材」という)を生産、据付けする企業である。資本金は3,600万円、従業員数は95名、最近の年間売上高は約25億円前後で推移している。会社組織には受注、設計および据付業務を担当する技術部、関西本社工場および関東エ場での製造・物流を担当する製造部、新製品開発を担当する開発部、経理および総務業務を担当する総務部がある。なお、技術部は本社のほか、中部支店と東京支店に配置されている。

通信事業者が通信施設の新設や改修などの工事を行う場合、通信事業者側が企画し、通信建設会社が施工を請負う。C社はこの通信建設会社から受注する。

C社は、創業以来、通信建設会社の指導を受け、通信用部材事業における品質を確保するために製品の標準化や据付け施工面での保安対策技術の習得に努めた。また、製品開発力を武器に営業活動を展開し、業績の拡大とともに中部支店を開設した。さらにそれまで付き合いのあった通信建設会社の勧めで、新たな通信事業者の開拓を目指し東京支店を開設している。

【市場の概要】

通信事業者が必要とする通信用部材の市場規模は小さい。この市場でC社は、同業者約10社と竸合状態にあり、第2位のシェアを確保している。市場シェア第1位企業X社の販売エリアは首都圏中心である。X社と比較して、新製品開発力・提案力、製品・施工品質についてはC社の評価は高いが、納期や価格面での評価は低い。

通信機器は、技術革新によって高速化やダウンサイジング化が進み、通信施設も省スペース化が進んでいる。通信用部材業界にもこの影響が及んでおり、高速化、ダウンサイジング化が進む通信機器に対応した新製品の提案が求められ、さらに、低価格化や工事期間の短縮などの要求が厳しい。C社では、開発部を中心にダウンサイジング化が進む通信機器に対応した通信用部材の開発を行い、通信事業者や通信建設会社へ提案し、新規取引先を獲得する営業展開を進めてきており、今後も強化する方針である。

【C社の生産概要】

C社が受注する通信用部材は、施工図面で指示されるが、2種類の部材の組み合わせで構成される。1つは通信事業者ごとに寸法、形状が規格化されている標準仕様部材、もう1つは通信施設の大きさ、建物への設置条件、使用する通信機器などにあわせて製造する補助部材である。

営業活動は、経営者の通信建設会社へのトップセールスによる受注情報の収集が基本である。受注後は、対象通信施設の現地調査、設計、製造、そして現地据付け施工まで行う。

受注、現地調査、設計は技術部内で受注物件ごとに選任された設計担当者が担当し、通信施設での調整事項や設計変更などの内容は担当している設計担当者しか分からない。設計業務にはCADが使われているが、部品のような設計要素のライプラリー化などは行われていない。また、技術部としてCADの使用方法についての標準化やデータの共有化は図られておらず、設計担当者各人がそれぞれ独自に使用している。このような設計担当者の業務状況のため、受注から据付け施工完了までの全期間に占める設計担当業務には大きな時間が割かれている。

各部材製造については、関西本社工場では多品種少量の受注生産の補助部材を担当し、関東工場では在庫対応が可能でロットサイズを大きくできる標準仕様部材を担当している。関西本社工場は汎用加工機を用いた多品種少量生産に適しているが、関東工場は後述する経緯があってOAフロア工場として建設されたことから専用機による量産体制であるため、このような両工場の分担となっている。

部材の物流については、関西本社工場に物流センターがあり製造部が担当している。関東工場で製造された製品は、関西本社工場にある物流センターに運ばれそこで在庫となり、両工場で製造されたものを物件ごとに組み合わせて出荷する。

【通信用部材以外の新製品開発】

C社では、通信用部材以外の新製品開発にも積極的に取り組んできた。開発部では取引先、仕人先など関連企業からの依頼や情報提供に応じて、また社内からの提案に応じて新製品企画・開発を行っている。

その取り組みとして、過去に大手建材メーカーY社からの提案で、Y社の建材メーカーとしてのノウハウとC社の通信用部材のノウハウを活用し、新製品として施工性が良く多機能なオフィス用OAフロアを事業化した経験がある。OAフロアとは、コンピュータなどの多くの配線を床下配線可能な状態にするために床を二重化するものである。全国に販売拠点を持ち多くの建設会社と取引関係のあるY社は、ビル工事を施工する建設会社からOAフロアの引き合いがあった場合、他メーカーから商品を仕入れて受注に対応していたが、当時引き合いが多くなったことから自社ブランド製品化を進めるためにC社へ共同開発の提案を行ったものである。

北関東にOAフロア量産の関東工場をC社が建設して製造し、Y社の物流センターへ納品する契約をした。Y社では物流センターに在庫し即納体制を整え、全国にある販売網を利用して建設会社に営業を展開した。しかし、ビル完成後にIT機器等を納品する事務機メーカーのシンプルな機能で軽量化された低価格製品と競合し、Y社の販売数量が低迷したため、C社はこの事業から撤退した。

その他C社開発部では、通信用部材以外の新製品開発を多く手掛けてきたが、現在まで大きな成功例はなく推移している。

●第1間(配点30点)

C社では、横ばいで推移している業績を改善するためX社のシェアが高い首都圏市場への参入を目指している。この課題について、以下の設問に答えよ。

(設問1)
C社が首都圈市場への参入で活用すべき競争優位性は何か、60字以内で述べよ。

(設問2)
C社が首都圈市場への参入を実現するためには、関東工場の役割をどのように変えるべきなのか、またそれを実現するためにはどのような具体的対応策が必要となるのか、120字以内で述べよ。

●第2問(配点40点)

C社では、顧客からの問い合わせに迅速に対応するため、また、短納期化に対応するため、技術部内の情報の共有化や業務の効率化を図る計画がある。この計画について、以下の設問に答えよ。

(設問1)
技術部内で共有化が必要と考える具体的情報名を80字以内であげよ。

(設問2)
技術部内の業務効率化を図るために必要な具体的改善内容を120字以内で述べよ。

●第3問(配点30点)

C社経営者は、これまで蓄積した生産技術のノウハウを活用し、通信用部材市場以外での新規事業開発を模索している。過去に経験したY社との共同開発事業の失敗の要因と、その失敗の要因を踏まえた今後の新規事業開発の留意点を、140字以内で述べよ。

★ヒント★

第1問
(設問1)
C社と競合する企業の現状を把握し、その市場に参入するために必要な競争優位性を分析する能力を問う問題である。
(設問2)
C社が首都圏への参入を実現するために必要な関東工場の役割と、その役割を実現するために必要な対応策を分析・提案する能力を問う問題である。

第2問
(設問1)
C社の技術部内での課題を把握し、顧客問い合わせに対する迅速化と短納期化に対応するために、技術部内で共有化が必要な情報を分析する能力を問う問題である。
(設問2)
C社の技術部内での課題を把握し、顧客問い合わせに対する迅速化と短納期化を目的に業務効率化を図るための改善方法を分析・提案する能力を問う問題である。

第3問
C社の過去の新規事業開発の失敗要因を把握し、今後の新規事業開発の留意点を分析・提案する能力を問う問題である。

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