2013年(平成25年) 事例Ⅳ

D社は創業70年ほどの資本金100百万円、売上高630百万円、従業員数40名の医薬品製剤製造会社である。配置薬の販売を行っていた創業者が考案した内服薬が市場で高い評価を得たことから、同社が設立された。当初は自社製品群が主力であったが、市場が大きく変化し、現在はジェネリック医薬品や栄養ドリンクなど大手医薬品メーカー製品のOEM生産が主体となっている。

D社は大手医薬品メーカーの要請に積極的に対応し、生産工程の技術管理、衛生管理や納期の徹底を図るなどして、厚い信頼を得てきた。その過程で、生産ラインの見直しと自動化が進んだ結果、工場スペースが有効に活用できるようになり、現在は新エ場のみで生産が行われ、旧工場は休眠中である。

経営状態は比較的安定しているものの、近年の大手医薬品メーカーによる品質管理のさらなる徹底および価格低減の要請が粗利益の圧迫要因となり、事業の見通しは決して明るいものではない。このような状況から脱却するために、受け身ではなく「攻め」の経営を志向する必要性を現在の経営者は感じている。その一環として、現在休眠中の旧工場の建屋を活用したアグリビジネス、具体的には新規事業として植物工場の設立を検討している。

ここで、植物工場とは、「施設内で植物の生育環境(光、温度、湿度、二酸化炭素濃度、養分、水分等)を制御して栽培を行う施設園芸のうち、環境および生育のモニタリングを基礎として、高度な環境制御と生育予測を行うことにより、野菜等の植物の周年・計画生産が可能な栽培施設」と定義される(『植物工場の事例集』農林水産省・経済産業省)。

D社では、植物工場の形式を太陽光・人工光併用型とし、水耕栽培でハープ類や薬草を栽培、出荷することを検討している。また、栽培においては水温・水質の管理、温度、湿度の管理、といった工程管理、品質管理が重要となるが、これらの面では、D社が長年培ってきた生産管理上のノウハウを生かすことが期待されている。工場で栽培される植物は十分な需要が存在し、一定の品質が保証される限り、すべて生産した期に販売されると見込まれている。

なお、D社の現在の貸借対照表は次のとおりである。

●第1問(配点25点)

D社では、植物工場設立にあたり、開業資金150百万円のうち、100百万円の出資を予定している。内訳は、D社の余剰資金から70百万円、金融機関からの長期借入30百万円である。

出資によるD社への影響を評価するために、現在のD社の貸借対照表と、出資直後の予想貸借対照表から財務状況を比較することにした。

財務状況を表す主要な財務比率を3つあげ、その財務比率の名称を(a)欄に、出資直前の数値(小数点第3位を四捨五入すること)を(b)欄に、出資直後の数値(小数点第3位を四捨五入すること)を(c)欄に示せ。
また、出資によるD社への影響を(d)欄に80字以内で述へよ。

●第2問(配点45点)

植物工場は開業資金として、D社から100百万円を受け入れ、工場自身で50百万円を調達する。調達の方法は金融機関から借り入れる(金利年4%、年10百万円を各期末に返済)か、少人数私募債(金利年4%、第5期末に一括返済)が検討されている 返済が完了すると同時に、再び同額を借り入れるものとする。

栽培設備設置などに100百万円の投資が必要であり、これらは開業までに投資、建設され、開業第1期首から設備を稼働させる。設備の耐用年数は5年であり、残存価額をゼロとする減価償却を行う。設備は第5期末で同額の投資により更新が必要であ
栽培した植物は一定の品質が保証される限り、すべて生産した期に販売が行われるものとする。最大生産能力は売上高に換算して約100百万円/年であるが、軌道に乗るまでの第1期、2期は操業度を落とし、売上高をそれぞれ50百万円、80百万円とし、第3期からは毎期90百万円を予定している。

費用の構成は、変動費が各期売上高の30%、固定費が毎期18百万円と見積もられている。ただし、支払利息と減価償却費は別途計算する。

(設問1)
D社が新たに手掛ける植物工場における5年間の減価償却費を、①定額法を用いて償却した場合と、② 200%定率法(第4期、第5期については未償却残高を均等償却)を用いて償却した場合について(a)欄に示し(単位:百万円、小数点第2位を四捨五入すること)、それぞれの場合について5年間の営業キャッシュフローの累計額を(b)欄に示せ(単位:百万円、小数点第2位を四捨五入すること)。ただし、自身の資金調達は金融機関からの借り入れとし、取引はすべて現金で行われると仮定する。また、法人税率は40%、欠損金の繰延控除は考慮しないものとする。

(設問2)
設問1において、(b)欄の計算結果が一致しなかった理由について40字以内で述べよ。

(設問3)
植物工場自身での資金調達を、金融機関からの借り入れによる場合と少人数私募債による場合とで、第5期末の現金有高を多く残すことができるのは、どちらの調達方法か。調達方法を(a)欄に、金額を(b)欄に示せ(単位:百万円、小数点第2位を四捨五入すること)。また、その理由を(c)欄に30字以内で述べよ。ただし、減価償却は定額法で行い、取引はすべて現金で行われると仮定する。また、法人税率は 40%、欠損金の繰延控除は考慮しないものとする。

●第3問(配点30点)

植物工場で栽培した植物は一定の品質が保証される限り、すべて生産した期に販売されると見込まれているが、前提とされる品質基準に適合しないものが生産されるリスクがある。植物工場において生産計画から納品までのそれぞれのプロセスの中で、考慮すべきリスクに関連するコストを大きい順に4つ、90字以内で述べよ。

★ヒント★

第1問

D社による新規事業への出資前後の貸借対照表を比較して、財務状況の変化を適切に表す財務比率を算出するとともに出資によるD社の財務面への影響について説明する能力を問う問題である。

第2問

(設問1)
異なる減価償却方法に応じた各期の減価償却費を算出する能力、およびこれにより生じる営業キャッシュフローの違いを算出する能力を問う問題である。

(設問2)
減価償却と税効果の関係を説明する能力を問う問題である。

(設問3)
資金調達方法の違いにより生じるキャッシュフローの額に差が生じることを理解し、その差が生じる理由について説明する能力を問う問題である。

第3問

品質に関するリスクをプロセス別に4つの原価概念に分類し、具体的に説明する能力を問う問題である。

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