2015年(平成27年)事例Ⅳ

D社は、地方主要都市の郊外に本社および工場を有する1950年創業の金属加工業を営む企業(現在の資本金は1億円、従業員60名)である。同社は、創業時には農業用器具を製造・販売していたが、需要低迷のため一時期は事業を停止していた。しかし、しばらくして、自動車部品等の製造・販売を主な事業とするX社への供給を目的とした、カーエアコン取り付け部品セットやカーエアコン用コンプレッサ関連の精密部品の製造・販売を開始した。

その後、D社はX社以外への精密部品の製造・販売にも事業拡大を図ってきた。その過程で多様な金属加工技術(板金・切削)を蓄積したことにより、D社の技術力は市場から一定の評価を受けている。

現時点におけるD社は、X社向けの部品製造を事業の中核としており、同社からの受注がD社の売上高全体の7割程度を占めている。しかし、最近では、自社開発のz鋼板を使用した精密部品が主力製品の1つになりつつあり、その効果によって X社向け以外の精密部品の受注が増加傾向にある。さらに、同社が有する金属加工技術を活かした新規事業として、これまでの取扱製品とは異なる需要動向を示す環境関連製品の製造・販売を計画しており、すでに一部の製品開発を終了している。なお、当該新規事業分野への進出にあたって慎重な市場調査を行った結果、一定の需要が存在することが分かっている。

D社を取り巻く経済環境は回復傾向にあるが、なお先行きの不透明感があることも事実であり、同社の受注状況を見ると、ここ数年間における製品ごとの需要変動や月次べースでの生産数量の変動が大きくなっている。また、来期において、主要取引先のX社は部品調達の一部を海外企業に求めることを決定しており、そのため、来期の受注数量が減少すると予想している。このように、同社は環境の不透明性だけでなく、目先の受注減少という状況に直面しており、その経営が不安定になってきている。

このような環境下で、経営陣はD社の安定的な成長・発展をどのようにして達成していくかを日頃より議論している。
以下は、今期(第x2期)のD社の実績財務諸表と同期における同業他社の実績財務諸表である。


●第1問(配点28点)

(設問1 )
D社および同業他社の財務諸表を用いて経営分析を行い、同業他社と比較した場合において、D社が優れていると判断できる財務指標を1つ、課題となる財務指標を2つあげ、(a)欄に名称、(b)欄に算定した数値を、それぞれ記入せよ。なお、優れている指標については①の欄に、課題となる指標については②、③の欄にそれぞれ記入すること。また、数値については、(b)欄のカッコ内に単位を明記し、小数点第3位を四捨五入すること。

(設問2)
D社の財政状態および経営成績について、同業他社と比較した場合の特徴を60字以内で述べよ。

●第2問(配点34点)

(設問1)
以下の損益予測に基づいて、第x3期の予測損益計算書を完成させよ。なお、利益に対する税率は30%とし、損失の場合には税金は発生しないものとする。

<損益予測>

第x3期の売上高は、X社からの受注減少によって第X2期と比較して10%減少すると見込まれる。また、第x2期の損益計算書の費用項目を分析したところ、売上原価に含まれる固定費は1,020百万円、販売費及び一般管理費に含まれる固定費は120百万円である。第x3期における固定費と変動費率は第x2期と同じである。

(設問2)
設問1の予測損益計算書から明らかとなる傾向を(a)欄に40字以内で、そのような傾向が生じる原因を(b)欄に60字以内で述べよ。

(設問3)
設問1の予測損益計算書をもとにCVP分析を行うことによって、以下の金額を求め、(a)欄にその金額を、(b)欄に計算過程を、それぞれ記入せよ。なお、解答にあたっては、金額単位を百万円とし、百万円未満を四捨五入すること。

(1)第x3期において100百万円の経常利益を達成するために必要となる売上高はいくらか。
(2)第x3期において100百万円の経常利益を達成するために固定費の削減を検討している。必要な固定費削減を行った場合、経常利益がゼロとなる損益分岐点売上高はいくらか。

●第3問(配点26点)

X社からの受注の減少が第x3期以降継続し、機械設備gの遊休化が予想される。経営陣は、当該機械設備を利用して全社的な収益性を改善したいと考え、以下に示す2つのプロジェクトを検討中である。遊休化が予想されている機械設備gは、取得原価50百万円、年間減価償却費10百万円、残存耐用年数3年である。なお、以下において、利益に対する税率は30 %とする。
下記の設問に答えよ。

<プロジェクトZ>

受注減少に伴って遊休化する機械設備gの生産能力を利用してz鋼板を生産する。それにより、主力製品の1つとなりつつあるz鋼板の生産体制を増強し、さらなる効率化と安定化および将来的な一貫生産を達成することを目指す。製造・販売予測に基づく損益等の予測は以下のとおりである。なお、当初投資時点は第x3期首であり、同時点における投資は在庫等に対する純投資額である。

<プロジェクトE>

遊休化する機械設備gと新たに購入する機械設備hを利用することによって、技術力を活かした環境関連製品の本格生産を目指す。機械設備hの取得原価は80百万円であり、耐用年数5年、残存価額ゼロ、定額法で減価償却する。また、機械設備h の第x5期末時点での価値は簿価と同額の32百万円と予測される。製造・販売予測に基づく損益等の予測は以下のとおりである。なお、当初投資時点は第x3期首であり、同時点における投資は機械設備hと在庫等に対する純投資額である。

(設問1)
プロジェクトZを採用したことによって増加する各期のキャッシュ・フロー(当初投資時点の投資額を含まない)を、以下の2つのケースについて計算せよ。
ケース1 :各期におけるプロジェクトZ以外の事業活動からの税引前当期純利益がゼロである。
ケース2 :各期におけるプロジェクトZ以外の事業活動からの税引前当期純損失が10百万円である。

(設問2)
両プロジェクトの正味現在価値を計算して(a)欄に記入し、採用するべきプロジェクトについて(b)欄に〇印を付けよ。なお、計算においてはかねてより同社が採用している資本コスト10%を適用し、プロジェクト以外の事業活動からの税引前当期純利益はゼロであるとする。解答にあたっては、金額単位を百万円とし、小数点第2位を四捨五入すること。

(設問3)
設問2においては正味現在価値によってプロジェクトの収益性を評価したが、D社の財務状況に鑑みて、プロジェクトの流動性を検討するべきである。適切なプロジェクトの評価指標を計算し、両プロジェクトについて比較せよ。

●第4問(配点12点)

x社はD社にとって主要な取引先であり、D社の受注全体に占めるX社からの受注割合が大きい。この点に関して、下記の設問に答えよ。

(設問1)
X社のような大口取引先の存在は、D社にとってメリットもあるがデメリットもある。どのようなデメリットがあるか、30字以内で述べよ。

(設問2)
設問1におけるデメリットを解消するための方策として、環境関連製品の製造・販売をすることの意義を30字以内で述べよ。

★ヒント★

第1問

(設問1)
D社と同業他社の財務諸表の数値をもとに、D社の財務状態の評価目的にかなった財務比率を選択し、計算する能力を問う問題である。
(設問2)
適切な財務比率に基づいて、同業他社と比較した場合のD社の財務的な特徴を説明する能力を問う問題である。

第2問

(設問1)
損益予測に関する情報を理解し、予測損益計算書を作成する能力を問う問題である。
(設問2)
予測損益計算書をもとに、D社の将来における損益状況の特徴を理解し、そのような傾向が生じる原因を推定する能力を問う問題である。
(設問3)
予測損益計算書をもとに、与えられた条件に応じて、短期利益計画に有用な CVP 分析を実施する能力を問う問題である。

第3問

(設問1)
各プロジェクトの内容を理解し、全社的損益の状況に関する条件のもとで各プロジェクトの将来におけるキャッシュ・フローを予想する能力を問う問題である。
(設問2)
将来の予想キャッシュ・フローに基づき、正味現在価値によってプロジェクトの採算性を判断する能力を問う問題である。
(設問3)
プロジェクトの流動性評価の指標を理解したうえで、将来の予想キャッシュ・フローに基づき、プロジェクトの流動性を判断する能力を問う問題である。

第4問

(設問1)
大口得意先が存在することが、D社の企業経営に与えるデメリットに関する理解を問う問題である。
(設問2)
大口得意先の存在が経営に与えるデメリットを解消するために、特定の製品を製造・販売することによる効果についての理解を問う問題である。

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