- 2001/10/04
D社は、創業20年ほどの資本金5,000万円、正規従業員81名の、県内産の高級食材を活かして県内外に店舗を展開するレストランである。
同社は、カジュアルで開放感ある明るい店内で、目の前で調理されるステーキや野菜などの鉄板焼きを楽しむレストランの1号店を開店した。その後、このタイプの鉄板焼きレストランを県内にさらに3店舗開店した。
一方、別のタイプの店舗として、落ち着いた雰囲気の店内で、新鮮な食肉や旬の野菜を使って熟練した料理人が腕をふるう創作料理店1店舗を開店した。鉄板焼きレストランは、1店舗を閉店する一方で、数年前に県外初となる店舗を大都市の都心部に開店した。前期の第3四半期には同じ大都市の都心部に創作料理店を1店舗、別の大都市の都心部に鉄板焼きレストランを1店舗開店し、現在の店舗数は合計7店舗である。
全般的には依然として顧客の節約志向が強く、業界環境は厳しいなか、主要顧客である県外からの観光客数が堅調に推移しており、D社の県内店舗の来店客数は増加傾向を維持し、客単価も維持できている。
同社は、顧客満足の提供を追求して、食材にこだわり、きめ細やかな心配りによるホスピタリティあふれるサービスのために社員教育の徹底に努めている。県外の鉄板焼きレストランも、県内店舗と同様に店舗運営を徹底したこと、それにより固定客を獲得できたこと等から、業績は順調に推移している。
大都市に前期に出店した2店舗も新規固定客の獲得に努めている。しかし、開店から1年以上が経過しても、創作料理店は業績不振が続いており、当期は通年で全社業績に影響が出ているため、その打開が懸案となっている。
県外進出の一方で、D社は、本社機能の充実に加え、人材育成の拠点となる研修施設の拡充、新規出店の目的で、用地代を含め約8億円を投じて新しい本社社屋を建設する計画である。投資資金は、自己資金と借入れによって調達する。調達額とその内訳は、投資総額が確定した段階で最終的に決定する。
同社は、当期に新社屋の用地として市内の好適地を取得し、建設計画を進めている。本社社屋には店舗と研修施設とが併設される。新規店舗は鉄板焼きレストランと、新しいタイプの店舗として同じ価格帯のメニュー、同格の店舗の雰囲気・意匠をもって顧客に満足感を提供するしゃぶしゃぶ専門店とを開店する予定である。
D社の前期および当期の財務諸表は以下のとおりである。
●第1問(配点25点)
(設問1)
D社の前期および当期の財務諸表を用いて経営分析を行い、前期と比較した場合のD社の課題を示す財務指標のうち重要と思われるものを3つ取り上げ、それぞれについて、名称を(a)欄に、当期の財務諸表をもとに計算した財務指標の値を(b)欄に記入せよ。なお、(b)欄の値については、小数点第3位を四捨五入し、カッコ内に単位を明記すること。
(設間2)
設問1で取り上げた課題が生じた原因を70字以内で述べよ。
●第2問(配点35点)
D社は新しい本社社屋の建設計画を進めており、社屋は用地取得の1年後には完成して引き渡しを受ける予定である。以下の設問に答えよ。
(設問1)
前期と当期の財務諸表を用い、空欄に金額を記入して当期の営業活動によるキャッシュフローに関する下記の表を完成せよ。
(設問2)
新しい本社社屋を建設するための投資の内訳および減価償却に関する項目は以下のとおりである。この投資の意思決定は、本社が移転し、新設される2店舗が営業を開始してから5年間(当初投資後2年目から6年目まで)のキャッシュフローの予測をもとに行われている。土地および建物・器具備品の6年後の売却価値は簿価と同額と予測される。
以下の金額を求め、その金額を(a)欄に、計算過程を(b)欄に、それぞれ記入せよ。
なお、(a)欄の金額については、単位を百万円とし、小数点第1位を四捨五入すること。
①土地および建物・器具備品について、投資額、6年後の売却価値およびそれぞれの当初投資時点における現在価値はいくらか。
②新しい本社社屋を建設するための投資の意思決定に際し、新設される2店舗が営業を開始した後の税引後キャッシュフローの増加分はいくら以上と見込まれているか。ただし、キャッシュフローは、2年後から6年後まで毎年均等に生じるものとする。
●第3問(配点15点)
大都市の都心部に出店した創作料理店は業績の不振が続いている。そこで、同店を閉店するかどうかの検討を行うことにした。同店は、商業施設にテナントとして出店している。同店の見積損益計算書は以下のとおりである。この見積損益計算書をもとに、閉店すべきかどうかについて、意思決定の基準となる尺度の値と計算過程を(a)欄に記入し、結論を理由とともに(b)欄に50字以内で述べよ。
●第4間(配点25点)
D社は業者が運営する複数のネット予約システムを利用している。ネット予約システムは、営業時間外でも予約の受付が可能であり、業者の検索サイトに店舗情報が掲載され、契約によっては広告などでもネット上の露出が増える。初期登録や利用、予約成約などに関するネット予約システムの料金体系は、業者によってさまざまである。
その一方で、店舗側では複数のネット予約システムからの予約と従来どおりの予約とをあわせ、予約を管理する必要がある。D社でも、各店舗で予約管理に一定の時間が費やされている。そこで、同社は業者が運営するネット予約システムに加えて、店舗別の予約を集中管理する機能も有する自社のネット予約システムを導入することを検討している。
(設問1)
業者が運営するネット予約システムを利用することにより、同システムを利用しない場合と比較し、D社の収益や費用はどのような影響を受けているか、60字以内で述べよ。
(設問2)
自社のネット予約システム(取得原価20百万円、耐用年数5年、残存価額ゼロ)の導入により、予約管理費が各店舗で3分の1に削減され、予約の成約による送客手数料の総額が3分の2に低下することが見込まれる。
自社のネット予約システムを導入する前の短期利益計画は以下のとおりである。損益分岐点売上高の変動額およびその変動要因について、その金額を(a)欄に、計算過程を(b)欄に、それぞれ記人せよ。なお、(a)欄の金額は単位を百万円とし、小数点第1位を四捨五入すること。また、②と③はカッコ内に上昇・低下の別を明記すること。
①自社のネット予約システム導入前の損益分岐点売上高はいくらか
②自社のネット予約システム導人による損益分岐点売上高の変動額はいくら
③導入前の固定費をもとにした、自社のネット予約システム導入にともなう変動費率の変動による損益分岐点売上高の変動額はいくらか。
★ヒント★
第1問
(設問1)
財務諸表の数値をもとに、D社の財務状態の評価目的にかなった財務指標の値を求めることで、診断及び助言の基礎となる数値を算出する能力を問う問題である。
(設問2)
適切な財務比率に基づいて、前期と比較した場合のD社の財務的な課題を把握し、その原因について分析する能力を問う問題である。
第2問
(設問1)
財務諸表の数値をもとに、D社の営業活動によるキャッシュフローの計算表を作成することで、診断及び助言の基礎となる数値を算出する能力を問う問題である。
(設問2)
D社の投資の現在価値と各年均等の税引後キャッシュフロー増分を求めることで、投資の経済性について診断及び助言の基礎となる数値を算出する能力を問う問題である。
第3問
見積損益計算書をもとに、適切な業績評価の尺度となる値を求め、これに基づきD社の店舗の閉店について分析して提案する能力を問う問題である。
第4問
(設問1)
業者が運営するネット予約システムについて、D社の損益への影響の視点から分析する能力を問う問題である。
(設問2)
損益分岐点売上高の変動額を求めることで、D社独自のネット予約システムの導入について、診断及び助言の基礎となる数値を算出する能力を問う問題である。