- 2009/08/15
この問題は、
単なる採用難だけでなく、
若手の離職、
ベテランへの技能偏重、
組織文化の硬直化といった、
中小企業が直面しやすい
構造的な課題をテーマにしています。
【与件文】
A社は、地方都市に拠点を置く従業員35名の精密金属加工メーカーである。大手自動車部品メーカーからの特注案件を中心に、高い技術力で信頼を得てきた。現社長(62歳)は創業者の精神を引き継ぎ、「技術こそが最大の営業力」と考え、現場主義を貫いている。
現在、A社は深刻な人手不足に直面している。受注は旺盛だが、慢性的な人員不足から納期遅延が発生し始めており、大手顧客から苦言を呈されることもある。直近3年間の採用実績は中途採用で4名だが、うち3名が1年以内に離職している。若手社員からは「明確な教育計画がなく、何を覚えればいいか分からない」「ベテラン職人の指導が厳しすぎる」といった声が上がっている。
一方、現場を支えるのは平均年齢55歳のベテラン職人たちである。彼らは「技は盗んで覚えるもの」という信念を持っており、工程の多くが彼らの「勘と経験」に依存(属人化)している。社長は、ベテランの退職が数年後に迫っていることに強い危機感を抱いているが、日々の業務に追われ、具体的な人事政策を打てていない。
第1問(配点20点)
A社における人材不足と若手社員の離職が続いている理由について、組織・人事の観点から2つ抽出し、それぞれ30字以内で述べよ。
第2問(配点30点)
A社の強みである熟練技能を次世代へ円滑に承継させるために、社長が取り組むべき具体的な施策を100字以内で助言せよ。
第3問(配点25点)
若手社員の定着率を向上させ、意欲を引き出すために、A社が導入すべき「動機付け」に資する人事制度について、100字以内で述べよ。
第4問(配点25点)
A社が将来的に「選ばれる企業」となり、採用難を克服するために、外部(求職者)に対してどのような情報を、どのような手段で発信すべきか。100字以内で助言せよ。
★「思考プロセス」と「分析のポイント」解説
2次試験では、
与件文の行間に隠れた「組織の病理」を見つけ出し、
標準的な理論(フレームワーク)で
治療法を提示する力が求められます。
第1問:離職理由の分析(現状把握)
【ヒント】
「なぜ辞めるのか」を、
個人の資質ではなく
「組織の仕組み」のせいにすることがポイントです。
【分析のポイント】
教育の欠如:
「何を覚えればいいか分からない」という記述から、
キャリアのロードマップ(道筋)がないことを指摘します。
心理的摩擦:
ベテランの「厳しすぎる指導」は、
現代の若手には「攻撃」と受け取られ、
心理的安全性を損なう大きな要因となります。
属人化:
ベテランの勘に頼る体制は、
若手にとって「習得不可能な壁」に見え、
無力感を与えます。
第2問:技能承継(ナレッジマネジメント)
【ヒント】
暗黙知を形式知に変える
「SECIモデル」の考え方を適用します。
【分析のポイント】
形式知化:
「技は盗むもの」というベテランの固定観念を崩し、
動画、写真、マニュアルという形で
「見える化」することを提案します。
仕組み化:
指導を「個人の厚意」に任せず、
「会社としての業務(役割)」として
ベテランに再定義(役職付与など)させることが重要です。
第3問:人事制度(動機付け)
【ヒント】
ハーズバーグの「二要因理論」に基づき、
不満をなくす(衛生要因)だけでなく、
満足を高める(動機付け要因)施策を考えます。
【分析のポイント】
成長の可視化:
「職能資格制度」を導入し、
「これができればB級、次はA級」とランク付けすることで、
若手が成長の実感を数字や等級で得られるようにします。
公正な評価:
「頑張ってもベテランの機嫌次第」という不透明さを排除し、
評価を賃金や昇進にリンクさせることで、納得感を生み出します。
第4問:採用戦略(インターナル・マーケティング)
【ヒント】
採用は「営業活動」と同じです。
ターゲットに刺さる
「独自の価値(EVP:従業員価値提案)」
を考えます。
【分析のポイント】
情報の質:
「アットホーム」などの抽象的な言葉ではなく、
「精密加工の社会的貢献度」や
「整った教育体制」といった
具体的・機能的な魅力を伝えます。
手段の多角化:
若手は文字よりも視覚情報を好むため、
SNSや動画を使い、
現場の「空気感」をリアルに伝えることが
ミスマッチ防止(RJP:現実的職務予告)に繋がります。
◎診断士としての総括
人材不足の問題が出た際は、
以下の「黄金の解決パターン」を意識してください。
① 見える化
技能をマニュアルにする、キャリアパスを明示する。
② 標準化
指導方法を統一する、評価基準を明確にする。
③ 役割変更
ベテランを「プレイヤー」から
「プレイングマネージャー(指導役)」に変える。
これらを組み合わせるだけで、
解答の論理性が一気に高まります。
【模範解答】
第1問
①技能伝承が属人的で、体系的な教育計画やマニュアルが欠如。
②ベテラン主導の封建的風土により、若手の心理的安全性が低い。
第2問
助言は、①ベテランの勘やコツを動画や写真等で形式知化しマニュアルを整備すること、②ベテランを指導役として公式に位置づけ、若手とのペア制による計画的なOJTを実施し、組織的に技能承継を行うことである。
第3問
導入すべきは、①技能習得レベルを段階的に評価する職能資格制度と、②評価結果を昇給や昇進に直結させる公正な報酬体系である。これにより成長の道筋を可視化し、若手の自己効力感と定着意欲を高める。
第4問
発信内容は、自社独自の精密加工技術の社会的意義や、若手の成長を支える教育体制とする。手段は、自社HPやSNS、動画配信を活用し、現場のリアルな雰囲気や若手社員の声を届けることで、親近感と信頼を醸成する。