- 2014/08/01
「事例Ⅰ(組織・人事)」において、
若手の離職とそれに関連する
「組織文化」
「教育体系」
「評価制度」
の不整合は、
現代的な最重要テーマの一つです。
【与件文】
A社は、都市部を中心に産業用空調設備の保守・点検を行う従業員50名の企業である。創業40年で、確かな技術力と誠実な対応により、大手ビル管理会社から安定的な受注を得てきた。現社長(60歳)は、自身も技術者出身であり、「技術は現場の厳しい経験を通じてのみ磨かれる」という信念を持っている。
現在、A社の最大の悩みは、新卒・若手社員の離職率の高さである。過去5年間に採用した新卒社員15名のうち、既に10名が離職しており、特に3年目までの離職が目立っている。離職した若手への出口調査では「将来の成長ステップが見えない」「上司が多忙で放置されているように感じる」「評価基準が不透明で、頑張りが給与に反映されない」といった声が多く聞かれた。
現場を支えるのは、勤続20年以上のベテラン社員たちである。彼らは個々に高い技術を持つが、指導方法は「背中を見て覚えろ」という徒弟制度的なスタイルが中心である。また、現場への直行直帰が多く、社員同士のコミュニケーションは希薄化しており、若手が孤独感を感じやすい環境にある。
社長は、次世代を担う人材を育てるために組織改革を決意し、人事制度の抜本的な見直しを検討し始めた。
第1問(配点20点)
A社において、若手社員の早期離職が発生している「組織・人事上の要因」について、与件文から2つ抽出し、それぞれ30字以内で述べよ。
第2問(配点30点)
若手社員のスキルアップを促進し、孤立感を解消するために、A社が現場(職場内)で取り組むべき「組織的な施策」について、100字以内で助言せよ。
第3問(配点25点)
若手社員の成長意欲を維持し、長期的な定着を図るために、A社が導入すべき「評価・報酬制度」のあり方について、100字以内で述べよ。
第4問(配点25点)
社長が目指す組織改革を成功させるために、ベテラン社員に対してどのような「意識改革」や「役割の再定義」を行うべきか、100字以内で助言せよ。
【解答の解説と分析のポイント】
1. 離職原因を「組織の構造的欠陥」として捉える
第1問では、
個人の資質ではなく、
A社の「教育体系の不在」と
「職場内コミュニケーションの分断」を指摘します。
これは診断士試験の事例Ⅰにおける「定石」です。
2. 「暗黙知の形式知化」による教育の標準化
第2問では、
徒弟制度的な教育を否定し、
「マニュアル化(形式知化)」と
「メンター制度」をセットで提案します。
現場への直行直帰が多いという制約に対し、
デジタルの活用や公式なペア制という
仕組みで対抗します。
3. 「キャリアパス」の提示で将来不安を払拭する
第3問のポイントは、
「将来が見えない」
という不満への回答です。
職能資格制度
自分のレベルが今どこで、
次に何をすべきかを可視化します。
評価の多面化
結果(売上や点検数)だけでなく、
プロセス(学習意欲)を評価することが、
未熟な若手への動機付けになります。
4. ベテランの「役割変化」を促す
第4問は難所です。
ベテランは変化を嫌いますが、
彼らが変わらなければ組織は変わりません。
インセンティブの付与
「教えることは自分の仕事の一部である」
と認識させるため、
評価項目に「育成実績」を加えます。
意識のアップデート
価値観の多様性を認めさせる研修が必要です。
【診断士2次試験 攻略の鍵】
事例Iの人材不足・離職問題では、
常に以下のサイクルを回す助言を心がけてください。
① 採用(RJP):リアルな情報を伝える。
② 配置(多能工化):いろいろな経験をさせる。
③ 評価(納得感):基準を公開する。
④ 報酬(成長):昇給の道筋を見せる。
⑤ 育成(形式知化):属人化を排除する。
この一貫性が、
得点を安定させる最大のポイントです。
【模範解答】
第1問
①体系的な教育計画が不在で、若手が将来の成長を実感できない。
②現場中心の働き方で疎通が不足し、若手が孤立し相談しにくい。
第2問
助言は、①技能の形式知化を行い、体系的な教育マニュアルを整備すること、②定期的な面談やWebツールによる情報共有の場を設け、ベテランをメンターに指名するペア制度を導入し、心理的安全性を高めることである。
第3問
導入すべきは、①習得すべき技能を段階的に明示した職能資格制度と、②プロセスの頑張りや後輩指導を評価する多面的な評価基準である。昇給・昇進の道筋を可視化し、公正な報酬で報いることで、定着意欲を高める。
第4問
施策は、①「背中を見て覚えろ」という徒弟制度からの脱却を促す教育研修を実施すること、②ベテランの役割を「孤高の技術者」から「後進の育成者」へと再定義し、育成実績を人事評価に反映させ、意識変革を促すことである。