- 2026/02/06
「事例I(組織・人事)」および
「事例II(マーケティング)」の
複合テーマとして、
「市場変化への戦略的適合の遅れ」
を題材にした演習問題となります。
変化の激しいIT業界や
製造業でよく見られる、
「過去の成功モデルへの固執」
が成長を阻害するケースを想定しています。
【与件文】
A社は、資本金4,000万円、従業員数80名のシステム開発会社である。創業以来、大手金融機関の基幹システム保守・運用という「安定・低リスク」なビジネスを主軸に成長してきた。A社の強みは、金融業界特有の堅牢なシステム構築ノウハウと、長年の取引で築いた深い信頼関係にある。
しかし、近年、金融業界でも「DX(デジタルトランスフォーメーション)」が加速し、クラウド活用やAIによる顧客分析、スマートフォンアプリを通じた迅速なサービス提供など、アジャイル(機動的)な開発へのニーズが急増している。
A社の社長(60歳)は、こうした変化を感じつつも、「金融システムは安定が第一」との考えを変えず、従来のウォーターフォール型(計画重視)の開発体制と、既存の保守案件に人員の8割を割く方針を継続している。その結果、既存顧客からも「新しい提案がない」と不満を持たれ、クラウド案件などは新興のITベンチャーへ流出し始めている。
また、社内の若手エンジニアからは「最新技術に触れる機会がなく、キャリアが不安だ」との声が上がり、最新スキルを持つ中堅層の離職が相次いでいる。社長は、このままでは市場から取り残されるという危機感を抱き、戦略の再構築を決意した。
第1問(配点20点)
J社が直面している「外部環境の変化」と、それに対する「内部組織の不適合(ミスフィット)」について、それぞれ40字以内で述べよ。
第2問(配点30点)
A社が市場変化に適応し、新たな成長基盤を築くための「新ドメイン(事業領域)」を、標的顧客と提供価値を明確にして100字以内で助言せよ。
第3問(配点25点)
再定義した戦略を実行するために、A社が取り組むべき「組織構造の変革」と「人材育成の施策」について、100字以内で助言せよ。
第4問(配点25点)
A社が既存の優良顧客(大手金融機関)からの信頼を維持しつつ、新市場へ進出する際の「リスク管理」と「資源配分」の考え方について100字以内で述べよ。
【解答の解説と分析のポイント】
1. 「成功の復讐」の回避
A社のような安定企業は、
過去の成功要因(堅牢な保守)が、
変化への「お荷物」
(*コア・リジディティ)
になりやすいです。
第1問では、
市場ニーズ(動的)と
自社体制(静的)の乖離を
明確に指摘することが求められます。
2. ドメインの再定義
事例Ⅱ的な要素です。
単に「新しいことをやる」のではなく、
「自社の強み(金融知識)」
×
「新しいニーズ(DX)」
を掛け合わせることで、
新興ベンチャーにはない
差別化の源泉を言語化します。
3. 「両利きの経営」の適用
既存事業を捨て去るのではなく、
既存を「現金創出源」(キャッシュカウ)
新規を「成長の芽」(スター)として、
組織を分けて管理する手法が、
リソースの限られた中小企業には現実的です。
受験者に受けたちょっとしたアドバイス
「戦略が市場変化に追いつかない」
というテーマが出た場合、
解答の締めくくりに
「ダイナミック・ケイパビリティ」
(環境適応能力)
の向上を意識すると、
非常に診断士らしい深みが出ます。
① 感知(Sensing)
変化を察知する(顧客との対話)
② 捕捉(Seizing)
機会を捉える(資源の再配分)
③ 変容(Transforming)
自己を作り変える(組織改革)
この3ステップを組織施策に盛り込むことで、
「なぜその組織改革が必要なのか」
という説得力が劇的に高まります。
*Core Rigidity
解説
この言葉は、
元々は強みであったはずの
「コア・コンピタンス(核となる能力)」が、
環境の変化に対応できず、
逆に組織の足を引っ張る
「硬直性(お荷物)」
になってしまった状態を指します。