- 2026/02/06
テーマ:「強みを持つ老舗企業のブランド再構築とデジタル活用」
【与件文】
B社は、地方都市の旧街道沿いに位置する、創業120年の老舗醤油メーカーである。資本金1,000万円、従業員数は社長(55歳)とその家族、およびパート社員5名の計8名である。
B社の強みは、創業以来守り続けている「木桶仕込み」による天然醸造である。大手メーカーが数ヶ月で大量生産するのに対し、B社は地元の契約農家から仕入れた大豆と小麦を使用し、1年以上かけてじっくり熟練の職人(社長)が熟成させる。その芳醇な香りと深いコクは料理人からも高く評価され、地元の高級旅館や割烹料理店など約30軒と長年の取引がある。
しかし、近年の食生活の洋風化や、安価な大量生産品との価格競争により、B社の業績は低迷している。売上の約6割を占める地元スーパーでの販売が、大手ブランドの低価格攻勢により前年比15%減となった。また、ギフト需要として重宝されていた「お歳暮・お中元」の注文も、虚礼廃止の流れで年々減少している。
社長の長男(28歳)が半年前に関東のIT企業から戻り、専務として入社した。専務は「B社の品質は日本一だが、ターゲットと売り方が時代に合っていない」と危機感を抱いている。専務の調査によると、最近では健康志向の高い都市部の30〜40代主婦層が「無添加」や「伝統製法」の調味料に関心を持ち、高価でも納得感のあるものをインターネットで購入している傾向があることがわかった。
B社には10年前に開設した簡素なホームページがあるが、更新は止まっており、ネット注文はほとんどない。また、直営店舗は趣のある土蔵造りだが、観光客が立ち寄る仕組みが整っていない。
第1問(配点20点)
B社の現状について、SWOT分析(強み・弱み・機会・脅威)を整理せよ。各項目につき2つずつ、簡潔に述べよ。
第2問(配点30点)
B社は今後、都市部の30〜40代主婦層を新たなターゲットとして開拓したいと考えている。このターゲットに適した「製品(Product)」および「価格(Price)」の戦略について、100字以内で助言せよ。
第3問(配点25点)
専務はインターネットを活用した直接販売(D2C)を強化したいと考えている。顧客との関係性を構築・維持するために、ホームページやSNSでどのような情報を発信すべきか。100字以内で助言せよ。
第4問(配点25点)
B社は直営店舗を「ブランド発信の拠点」としてリニューアルする計画である。観光客の立ち寄りを促し、その場での購買だけでなく、帰宅後の継続購入(リピート)に繋げるための施策を100字以内で述べよ。
【解答のヒントと分析のポイント】
第1問(SWOTの整理)
強み:木桶仕込み、天然醸造、地元原料、料理人からの高評価。
機会:都市部の健康志向、伝統製法への関心、ネット通販市場の拡大。
第2問(マーケティング・ミックス)
既存の「一升瓶」ではなく、小容量でおしゃれなデザインのボトル(製品)を検討し、希少性を活かした高価格帯(価格)を設定するのが定石です。
第3問(コミュニケーション・CRM)
単なる「売り込み」ではなく、木桶の様子や仕込みのストーリー(情緒的価値)や、その醤油を使った「時短でも美味しいレシピ」などの役立つ情報(機能的価値)を発信します。
第4問(オムニチャネル・店舗活用)
「試食・味比べ体験」などで来店動機を作り、その場でSNS登録やオンライン会員への入会を促す「QRコード付きクーポン」の配布などが有効です。
【模範解答】
https://note.com/nakybusiness/n/n352d1850aa40
【解答の解説】
第1問
【分析のポイント:なぜこのキーワードを選んだか】
2次試験のSWOT分析では、
単に事実を抜き出すだけでなく、
「その後の戦略立案に使える要素」
を優先的に抽出するのがコツです。
1. 強み(Strengths)の選び方
B社の強みは「木桶仕込み」という
VRIO分析でいう「模倣困難性」にあります。
大手には真似できない
「時間」と「手間」を強調することで、
高付加価値化の根拠にします。
2. 弱み(Weaknesses)の選び方
「売上の減少」という結果ではなく、
その原因である
「依存体質(地元・ギフト)」と
「情報の未整備(IT)」を抽出します。
これは後の設問での解決策
(販路開拓、D2C強化)に直結します。
3. 機会(Opportunities)の選び方
ターゲットとなる
「30〜40代主婦」のライフスタイル変化に注目します。
彼女たちは「納得できるものにはお金を払う」層であり、
B社の強みと合致(マッチング)する重要な市場です。
4. 脅威(Threats)の選び方
「価格競争」は中小企業が最も避けるべき戦いです。
また「洋風化」という市場トレンドを認識することで、
後の設問で「洋食に合う醤油」や
「レシピ提案」という施策を
引き出す伏線にします。
第2問
【戦略の解説:なぜこの回答になるのか】
新ターゲット向けの
製品・価格戦略の模範解答と、
その考え方を解説します。
診断士試験の記述では、
「ターゲットの特性」と「自社の強み」を
いかに結びつけるかが採点のポイントになります。
1. 製品戦略(Product):ターゲットの生活に寄り添う
小容量ボトル
都市部の少人数世帯や、
鮮度を重視する主婦層にとって、
従来の一升瓶や大きなペットボトルは不便です。
「使い切れるサイズ」にすることで、
酸化を防ぎ、常に美味しい状態を保つ利便性を提供します。
デザイン性
「出しっぱなしでもお洒落」なデザインは、
SNSでの拡散性(パブリシティ効果)を高め、
所有欲を刺激します。
レシピの同梱
洋風化という脅威に対し、
「洋食や時短料理にこそ、本物の醤油が合う」
という具体的な利用シーン(コト消費)を提案します。
2. 価格戦略(Price):価値に基づくプライシング
脱・価格競争
弱みである「コスト高」を逆手に取り、
高価格に設定することで、
逆に「特別なもの」というシグナルを送ります。
納得感(バリュー)
ターゲットは「安いから買う」のではなく
「良いものだから買う」層です。
天然醸造のストーリーを
価格の正当性(エビデンス)として活用し、
心理的満足度を高めます。
第3問
【戦略の解説:IT企業出身の専務がすべきこと】
1. 「情緒的価値」の可視化
B社の最大の強みである「木桶」や「熟練の技」は、
言葉だけでは伝わりにくい暗黙知です。
専務のITスキルを、
単なる「通販サイトの管理」ではなく、
「動画や写真によるストーリーテリング」
に注力させることで、
高品質な製品の裏側にある
「納得感(エビデンス)」を視覚的に訴求します。
2. 「機能的価値(コト消費)」の提案
ターゲットである主婦層にとって、
高品質な醤油は「使い道」が重要です。
レシピ提案
刺身や豆腐にかけるだけでなく、
「醤油一つで味が決まるパスタ」や
「無添加ドレッシング」など、
忙しい日常に役立つ活用術を提案します。
SNS活用
Instagram等のSNSで、
ハッシュタグ「#B社の木桶醤油」などを活用し、
ユーザーの投稿(UGC)を促すことで、
コミュニティを形成します。
3. 顧客関係管理(CRM)の基盤づくり
IT企業出身の強みを活かし、
ネット注文時の顧客データを分析します。
適切なタイミングでのフォロー
商品を使い切る頃に
「次の仕込みが完了しました」
といったメールマガジンを送るなど、
デジタルの力で「老舗の細やかな気配り」を再現します。
第4問
【戦略の解説:店舗を「売る場」から「体験の場」へ】
直営店舗のリニューアルと
リピート施策の模範解答と、
リアル店舗を「デジタルへの入り口」にするための
戦略ポイントを解説します。
1. 観光客を惹きつける「コト消費」
B社の直営店舗は
「土蔵造り」という強力な物理的証拠
(フィジカル・エビデンス)を持っています。
五感に訴える体験
醤油の香りを嗅ぎ、
複数の醤油を味比べする体験は、
大型スーパーの棚では絶対にできない体験です。
これが「わざわざ訪れる価値」となり、
観光客の立ち寄りを促します。
ブランドの深掘り
木桶を見せることで、
第2問・第3問で訴求した
「天然醸造」のストーリーが本物であることを証明し、
信頼を確固たるものにします。
2. オンラインへの橋渡し(O2O:Online to Offline)
観光客は一度帰宅すると、
店舗に再訪するハードルが非常に高くなります。
会員化の仕組み
「その場で購入」で終わらせず、
その場でSNSフォローや
LINE登録をしてもらう仕掛けを導入します。
(例:会員限定の醤油ミニボトルプレゼント)
リピートの動機付け
帰宅後に
「そろそろ醤油がなくなる頃」を見計らって、
ECサイトで使えるクーポンや、
旬の食材に合わせた醤油の使い道
(レシピ動画)を配信し、
オンラインへの再来訪を促します。
【全問を通じた振り返り:事例Ⅱの合格ロジック】
今回のB社の事例では、
以下の流れが一貫しています。
① 強みの再定義
「ただの醤油」ではなく
「木桶仕込みというストーリー」を売る。
② ターゲットの絞り込み
安さ重視の層ではなく、
健康と品質を重視する「30〜40代主婦」に集中。
③ オムニチャネル戦略
SNS・Web(デジタル)と、
直営店(リアル)を連携させ、
どこでもブランドを体験でき、
購入できる体制(D2C)を構築。
この
「誰に(ターゲット)」
「何を(強み・製品)」
「どのように(チャネル・販促)」
の整合性が取れていることが、
2次試験における高得点の条件です。