- 2026/02/07
この問題は、
損益計算書(P/L)上は黒字であるものの、
在庫の増加や回収条件の悪化によって
キャッシュフローが逼迫する構造的な課題を扱います。
【与件文】
D社は、資本金3,000万円、従業員数40名の精密部品メーカーである。長年培った加工技術により、主要顧客である大手機械メーカーX社から安定した受注を得てきた。
しかし、前期(平成X1年度)後半からX社の生産計画が頻繁に変更されるようになり、D社では欠品を恐れて原材料の先行手配と製品の積み増しを行った。その結果、棚卸資産が前年同期比で大幅に増加している。また、X社からの要請により、売上債権の回収条件が従来の「翌月末現金」から「翌々月末現金」へと1ヶ月延長された。
損益計算書上では、営業利益・経常利益ともに黒字を確保しているが、銀行口座の預金残高は減少の一途を辿っており、直近では仕入先への支払いや従業員の賞与支払いに支障をきたす懸念が生じている。社長は「利益は出ているのになぜ金がないのか」と困惑している。
第1問(配点20点)
D社の平成X1年度において、損益計算書上の利益とキャッシュフローが乖離し、資金繰りが悪化している主な原因を、与件文から2つ抽出し、それぞれ30字以内で述べよ。
第2問(配点30点)
D社のキャッシュ・コンバージョン・サイクル(CCC)を短縮し、資金繰りを改善するために、社長が取り組むべき具体的な施策を、棚卸資産の管理の観点から100字以内で助言せよ。
第3問(配点25点)
顧客からの回収条件悪化(売上債権の回収期間延長)が財務構造に与える影響について、安全性の観点から100字以内で説明せよ。
第4問(配点25点)
資金不足を補うための当面の対策として、金融機関から短期借入を行うこと以外に、D社が保有する資産の活用や管理面で検討すべき改善案を100字以内で述べよ。
【分析のポイントと解説】
1. 「利益」と「キャッシュ」の違い
損益計算書は「収益・費用」を計上しますが、
キャッシュフローは「実際の現金の出入り」です。
在庫が増えることは、
現金が「物」に姿を変えて眠ってしまうことを意味し、
これを「運転資金の増加」と呼びます。
2. キャッシュ・コンバージョン・サイクル (CCC)
「仕入債務を支払ってから、売上債権を回収するまでの期間」
のことです。
今回のD社は、
在庫期間が伸び、
回収期間も伸びたため、
CCCが大幅に悪化(長期化)しています。
3. 資産の質の見極め
貸借対照表の「資産」に計上されていても、
売れない在庫や回収できない売掛金は
「死んだ資産」です。
これらを早期に発見し、
健全なキャッシュに戻す管理能力が
中小企業経営には不可欠です。
この演習を通じて、
P/L上の数字に惑わされず、
B/SとC/Fの関連性を読み解く力を養ってください。
【模範解答】
第1問
①欠品防止を目的とした過度な先行生産による棚卸資産の急増。
②主要顧客からの要請に伴う、売上債権回収期間の1ヶ月延長。
第2問
助言は、①顧客の生産計画情報をリアルタイムで共有し、受注予測の精度を高めること、②製造リードタイムを短縮して適正な在庫水準(安全在庫)を再設定し、過剰な先行生産を抑制して在庫回転率を高めることである。
第3問
回収期間の延長は、売上債権の滞留を招き運転資金の所要額を増大させる。これにより短期的な支払能力を示す流動比率や当座比率が見かけ上維持されても、実質的な換金性が低下し、資金繰りの安全性を損なう。
第4問
施策は、①滞留在庫や長期間稼働していない遊休資産を売却し、現金化を図ること、②仕入先への支払条件の緩和交渉(支払期間の延長)を行い、収支のタイミングを調整してキャッシュフローのバランスを改善することである。