2018年(平成30年) 事例Ⅳ

D社は資本金5,000万円、従業員55名、売上高約15億円の倉庫。輸送および不動産関連のサービス業を営んでおり、ハウスメーカーおよび不動産流通会社、ならびに不動産管理会社およびマンスリーマンション運営会社のサポートを事業内容としている。同社は、顧客企業から受けた要望に応えるための現場における工夫をプラッシュアップし、全社的に共有して一つ一つ事業化を図ってきた。

D社は、主に陸上貨物輸送業を営むE社の引越業務の地域拠点として1990年代半ばに設立されたが、新たなビジネスモデルで採算の改善を図るために、2年前に家具。インテリア商材。オフィス什器等の大型品を二人一組で配送し、開梱。組み立て・設置までを全国で行う配送ネットワークを構築した。

同社は、ハウスメーカーが新築物件と併せて販売するそれらの大型品を一度一カ所に集め、このネットワークにより一括配送するインテリアのトータルサポート事業を開始し、サービスを全国から受注している。その後、E社の子会社F社を吸収合併することにより、インテリアコーディネート、カーテンやプラインドのメンテナンス、インテリア素材調達のサービス業務が事業に加わった。

さらに、同社は、E社から事業を譲り受けることにより不動産管理会社等のサポート事業を承継し、マンスリーマンションのサポート、建物の定期巡回やレンタルコンテナ点検のサービスを提供している。定期巡回や点検サービスは、不動産巡回点検用の報告システムを活用することで同社の拠点がない地域でも受託可能であり、全国の建物を対象とすることができる。

D社は受注した業務について、協力個人事業主等に業務委託を行うとともに、配送ネットワークに加盟した物流業者に梱包、発送等の業務や顧客への受け渡し、代金回収業務等を委託しており、協力個人事業主等の確保・育成および加盟物流業者との緊密な連携とサービス水準の把握。向上がビジネスを展開するうえで重要な要素に なっている。

また、D社は顧客企業からの要望に十分対応するために配送ネットワークの強化とともに、協力個人事業主等ならびに自社の支店・営業所の拡大が必要と考えている。同社の事業は労働集約的であることから、昨今の人手不足の状況下で、同社は事業計画に合わせて優秀な人材の採用および社員の教育にも注力する方針である。

D社と同業他社の今年度の財務諸表は以下のとおりである。

●第1問(配点24点)

(設問1)
D社と同業他社の財務諸表を用いて経営分析を行い、同業他社と比較してD社が優れていると考えられる財務指標を1つ、D社の課題を示すと考えられる財務指標を2つ取り上げ、それぞれについて、名称を(a)欄に、その値を(b)欄に記入せよ。なお、優れていると考えられる指標を①の欄に、課題を示すと考えられる指標 を②、③の欄に記入し、(b)欄の値については、小数点第3位を四捨五入し、単位をカッコ内に明記すること。

(設問2)
D社の財政状態および経営成績について、同業他社と比較してD社が優れている点とD社の課題を50字以内で述べよ。

●第2問(配点31点)

D社は今年度の初めにF社を吸収合併し、インテリアのトータルサポート事業のサービスを拡充した。今年度の実績から、この吸収合併の効果を評価することになった。以下の設問に答えよ。なお、利益に対する税率は30 %である。

(設問1)
吸収合併によってD社が取得したF社の資産及び負債は次のとおりであった。

今年度の財務諸表をもとに①加重平均資本コスト(WACC)と、②吸収合併により増加した資産に対して要求されるキャッシュフロー(単位:百万円)を求め、その値を(a)欄に、計算過程を(b)欄に記入せよ。なお、株主資本に対する資本コストは8%、負債に対する資本コストは1%とする。また、(a)欄の値については小数点第3位を四捨五入すること。

(設問2)
インテリアのトータルサポート事業のうち、吸収合併により拡充されたサービスの営業損益に関する現金収支と非資金費用は次のとおりであった。

企業価値の増減を示すために、吸収合併により増加したキャッシュフロー(単位: 百万円)を求め、その値を(a)欄に、計算過程を(b)欄に記入せよ。(a)欄の値については小数点第3位を四捨五入すること。また、吸収合併によるインテリアのトータルサポート事業のサービス拡充が企業価値の向上につながったかについて、設問1)で求めた値も用いて理由を示して(c)欄に70字以内で述べよ。なお、運転資本の増減は考慮しない。

(設問3)
設問2で求めたキャッシュフローが将来にわたって一定率で成長するものとする。その場合、キャッシュフローの現在価値合計が吸収合併により増加した資産の金額に一致するのは、キャッシュフローが毎年度何パーセント成長するときか。
キャッシュフローの成長率を(a)欄に、計算過程を(b)欄に記入せよ。なお、(a)欄の成長率については小数点第3位を四捨五入すること。

●第3問(配点30点)

D社は営業拠点として、地方別に計3カ所の支店または営業所を中核となる大都市に開設している。広域にビジネスを展開している多くの顧客企業による業務委託の要望に応えるために、D社はこれまで営業拠点がない地方に営業所を1カ所新たに開設する予定である。
今年度の売上原価と販売費及び一般管理費の内訳は次のとおりである。以下の設問に答えよ。

(設問1)
来年度は外注費が7%上昇すると予測される。また、営業所の開設により売上高が550百万円、固定費が34百万円増加すると予測される。その他の事項に関しては、今年度と同様であるとする。

予測される以下の数値を求め、その値を(a)欄に、計算過程を(b)欄に記入せよ。

①変動費率(小数点第3位を四捨五入すること)
②営業利益(百万円未満を四捨五入すること)

(設問2)
D社が新たに営業拠点を開設する際の固定資産への投資規模と費用構造の特徴について、60字以内で説明せよ。

(設問3)
設問2の特徴を有する営業拠点の開設がD社の成長性に及ばす当面の影響、および営業拠点のさらなる開設と成長性の将来的な見通しについて、60字以内で説明せよ。

●第4問(配点15点)

D社が受注したサポート業務にあたる際に業務委託を行うことについて、同社の事業展開や業績に悪影響を及ほす可能性があるのはどのような場合か。また、それを防ぐにはどのような方策が考えられるか。70字以内で説明せよ。

★ヒント★

第1問
(設問1)
財務諸表の数値に基づき、財務状態の評価目的に適合する財務比率を求めることで、診断及び助言の基礎となる数値を算出する能力を問う問題である。

(設問2)
適切な財務比率に基づき、同業他社と比較することで、財政状態及び経営成績を把握し評価する能力を問う問題である。

第2問
(設問1)
財務諸表等の数値から加重平均資本コストを求め、吸収合併で取得した資産に対する要求キャッシュフローを算出する能力を問う問題である。

(設問2)
営業損益数値から増分キャッシュフローを求め、要求キャッシュフローとの関係に基づき、吸収合併を企業価値の視点から評価する能力を問う問題である。

(設問3)
加重平均資本コストと増分キャッシュフローに基づき、資産価値の維持に必要な成長率を求めることで、診断及び助言の基礎となる数値を算出する能力を問う問題である。

第3問
(設問1)
営業損益の内訳とその変動の予測に基づき、予測の営業損益を求めることで、診断及び助言の基礎となる数値を算出する能力を問う問題である。

(設問2)
サービス提供形態及び営業費用の内訳から、営業拠点の費用構造と開設投資の特徴について、分析する能力を問う問題である。

(設問3)
営業拠点の新たな開設と成長性の関係について、売上高及び利益への短期的・長期的な影響の視点から分析する能力を問う問題である。

第4問
業務委託によるサービス業務の遂行について、事業展開や業績の視点から課題を把握し、方策を提言する能力を問う問題である。

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